これは嫉妬だけど嫉妬じゃない
仲の良かったヤツが他のヤツと仲良いとムカつく女同士のそれと一緒
恋だなんだじゃないけど、ムカつくものはムカつく
「丸井」
「・・・」
「丸井?」
「・・・」
机に突っ伏して聞こえる声に聞こえないフリを決め込む
ざわざわ煩い教室の中でもハッキリと聞こえる声
「朝から寝てるの?」
「・・・」
「丸井、起きなってば」
「・・・」
肩を揺すられ振り払おうかと思ったけど、ふわりと届いた甘い匂いに浮かしかけた腕を止める
それは昨日、俺が食いたいっつったマフィンの匂い
「丸井、起きろー」
気が向いたら作ってくる、そう言ったくせにしっかり作ってきてる事に俺はほんの少し満足
学校に来て真っ直ぐ俺の所に来た事
何度も呼びかけても諦めず、気配が少し動いて椅子を引く音が聞こえたって事は前の席に座ってる証拠
それに少しイライラが消えた俺は、しょうがねぇから顔を上げてやる
「あれ?丸井先輩、朝から寝てるんスか?」
わざとらしく、んっ、と声を出した瞬間聞こえた声に俺の機嫌は急降下
なんで二年の赤也が一緒にいるんだと、お前は一体何の権利があってこの教室に入ってきてるんだ
「また遊んでたんじゃない?」
「よくやるっスね」
「マフィンの匂いにも飛び起きないって事は、相当眠いんじゃない?」
「丸井先輩、お菓子だけには目がないっスからねぇ」
何をのんきに人の頭上で会話に花咲かせてんだよ
消えそうだったイライラが速度を増して俺を襲う
「あ、起きた?」
ゆっくりと身体を起こせば、首を傾げるが目の前にいる
不機嫌な俺を見て寝起きだからと判断したのか、がひょいっとシンプルな小さな紙袋を俺に差し出した
わざわざ何か聞かなくても匂いでそれがマフィンだとわかる
「おはよ、持って来たよ」
「・・・」
「丸井先輩、寝癖ついてるっスよー!」
「・・・」
寝癖がなんだ
お前の頭は年中ウネウネしてんだろ
寝癖か元々なのか判断のつかないお前に言われたくないと、イライラしてた俺は、思わず、ホント思わず、差し出された紙袋を叩き落とした
「えっ?」
「ちょ、丸井先輩!?」
思いのほか吹っ飛んだ紙袋は、誰かに当たったのかイテッと声が聞こえる
赤也がわざわざデカイ声で叫ぶから教室がしんっと静まり返った
「・・・丸井?」
俺を窺うようなの声
ムカムカした気持ちが納まらないまま、向けられる視線から目を背ける
「・・・いらないなら、いらないって言ったら?」
静かな、だけどグッと圧迫感のある声が響く
パタパタとした足音がやけに大きく聞こえた
視界の端に拾ってきた切原の手が手にした紙袋
「先輩、これ、俺がもらってもいいっスか?」
「え?でも、切原には少し甘すぎるかもよ」
「別にいいっスよ!疲れた時には甘いものっていうし」
「・・・ん、ありがと、切原」
くしゃりと笑う
そんな顔、今まで赤也に見せた事ないくせに、なんでそんな顔してんのお前
俺に声を掛ける事なく教室を出てく
次第に音が戻ってくる中で、割と強く赤也が俺の机に手をついた
「何を勘違いしてんのか知らないっスけど、俺はあんたのクラスにいる委員会の先輩に提出プリント持ってきただけっスよ」
「・・・は?俺にわざわざ言うなよ」
「キレてんじゃん、あんた。別に誤解すんのは勝手だけど、俺じゃなくて先輩に当たる理由あんの?」
「・・・」
俺にあたるのはいいっスけど、先輩に意味なくあたんのとか男として最低
そう言い残して赤也は教室を出てく
それもわざわざ、後ろのドアをドカッと殴ると言うオプション付き
(不機嫌BOY)
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