――― ・・・っ!!やめろ・・・っやめるんだ!!!
突然、まるで眠っていた何かを呼び覚ますように頭に響くお父さんの声
全身の力が抜けて床へ座り込む
キラキラとした思い出によって押さえつけられていた記憶が、あの夜から溢れてきているのがわかる
頭を振って這うようにシャワー室に入って服を着たまま冷水を浴びた
「・・・、何やってるんだお前は」
「・・・ごめんなさい」
「優姫は玖蘭枢しか見えてない。お前はお前で勝手に月の寮に行って、挙句あの架院暁に担がれて出てくるって・・・どうなってるんだよ・・・」
「あれは暁が勝手に!」
「・・・暁?」
しまった、と口を押さえた時には既に時遅し
ジトッと見下ろす零に、は "あはは・・・″と乾いた笑いを浮かべるがすぐに視線を泳がした
中々時間になっても出て来ないナイト・クラスの生徒を、まさか優姫に行かせるわけには行かず零が様子を見に行けば
月の寮から架院にお姫様抱っこをされてが出てきたのだ
零の機嫌は最高潮に悪い
「支葵千里だかって奴の事も、お前呼び捨てにしてたよな?それにあの日、一緒に居たのか?」
「・・・千里は、お友達・・・?」
「架院暁もか?」
「・・・暁は、ほら言ったよね?10年前、あたしの両親が殺されたって。その時、1週間だけあたしを預かってくれたのが暁の家なんだよ」
「家族同士付き合いがあったのか?」
「その辺はよくわかんない、けど・・・。暁のお父さんが言うには、あたしのお父さんと仕事で付き合いがあったみたい」
今日の零は何だか質問ばっかりだ、とは零を見上げる
優姫は機嫌の悪い零に関わりたくないとを見捨てダッシュで逃げた
校舎の中庭に流れる空気は少し重い
「まだ謎だらけ、なんだよね・・・。暁のお父さんは勿論吸血鬼だし、あたしのお父さんはそれを知ってたのかなって」
「・・・もし、犯人がわかったらどうするんだ?」
「どうするって・・・」
静かに見下ろす零から視線を離し、は中庭にあるベンチへと腰を下ろした
師匠でもある夜刈十牙から "あの女が生きてる″と聞いた瞬間から、既に覚悟を決めている零
自分の手で家族を奪い、自分を醜い吸血鬼に変えたあの女を殺すと、誓いを立てた
「・・・やっぱり、憎い・・・かな。あたし、お父さんとお母さんの事、大好きだから」
「・・・」
「もし目の前に現れたら・・・・うん、殺したいと、思っちゃうよね・・・」
「・・・、お前・・・」
真っ直ぐに何も無い宙を睨むように見つめるは、零が名前を呼べばパッと表情を変えた
さっきまでの冷たく無機質な表情は一瞬にして消えた
「ねぇ、零はどうして吸血鬼を憎んでるの?」
「・・・と、同じ理由だ」
「同じ?・・・え、零の家族・・・吸血鬼、に・・・?」
驚いたように揺れるの視線から顔を逸らし、言葉には出さずただ頷いた
"あの日の夜の事は今でも忘れない″と零はグッと唇を噛んだ
何も出来なかった自分が悔しくて、全ての始まりは4年前だと顔が歪む
「・・・そ、っか。・・・だから、そんなに吸血鬼を憎んでるんだ。・・・ハッキリと、覚えてるの?」
「あぁ。全部、覚えてる・・・あの女の顔も、声も、全部」
立ち上がりゆっくりと零に近づき、は零の髪を軽く引っ張った
小さな痛みが走りギュッと零の眉間には皺が寄る
「なんだよ」
「ん?ほら、そろそろ見回りに行かないと優姫が玖蘭先輩に取られちゃうよ?」
「・・・は?」
「好きなんでしょ?優姫の事」
"ほら、行こう″と腕を引っ張るに、零は目を丸くしたままただ引っ張られるようにして足を前に出す
に言われた言葉の意味をゆっくりと脳が理解する
そして "・・・は?″ともう一度気の抜けたような声を漏らし、振り返ったが首を傾げた
「どうかした?」
「・・・俺がいつ、優姫が好きだって言った?」
「え?言ってないけど、見てればわかるよ?」
「・・・」
「なんていうか、優姫と零の間には見えない糸みたいなの、あるよね」
「・・・それは、俺が優姫の・・・」
「ううん、ずっと前からそれは思ってた。三角関係ってやつ?うっは、なんか泥沼っていうか・・・・この組み合わせって怖いよね、ある意味」
敢えてはその糸が、どこか玖蘭に繋がっていると思いつつも口にはしなかった
ケタケタと笑うにガクッと肩の力が抜け、掴まれていた腕をササッと離してすぐに握り返し零は歩き出した
行き成り引っ張られた事で"ちょ、あぶなっ!″とが躓きそうになるのも構わずに校舎の中へと入っていく
「零ー?・・・なんか、怒ってる?」
「呆れてるだけだ」
「えぇ!呆れるような事、あたし言ったっけ・・・?」
「見回り、するんだろ?モタモタしてるなよ」
小走りで零の横に並び、繋がれた手に視線を落としてからは小さく首を傾げた
"センチメンタルなお年頃?″と的外れな思考は手を繋いでいる事実を対して気にもとめず、そのまま校内を歩く
夜の校内は静まり返り物音ひとつしなかった