学園までの帰り道、何も話さなかった零がぽつりと言ったんだ
「・・・俺達が夜の見回りが出来なかった時、風紀委員代行してたのはだ。俺達が動けない時、影で動いてたってよ」
言葉が出なかった
それも零は続けて、の左腕の骨折は風紀委員代行の時に "普通じゃない吸血鬼″と遭遇した時に怪我したものだと言った
階段から転げ落ちたと笑いながら私に言ったのに、本当は何かわからないモノと戦って傷ついたんだね
はどれだけ我慢してくれた?
聞きたい事、たくさんあった筈なのに何も聞かずにいてくれた
何も知らないままで私が気付かない所で助けてくれた
――― ・・・っ何も、知らない癖に・・・っわかったような事言わないでよ!!
私が言った言葉は、絶対にに言っちゃいけない言葉だった
"知らなかった″じゃ済まされない
どれだけが悩んで、苦しんで、それでも私達を信じて助けてくれていたのに、私はそんなの胸が苦しくなるくらいの優しさを踏みにじった
どうしては、あんなにひどい事を言った私を助けれくれたの?
私も "普通じゃない吸血鬼″だと言う事しか知らないけど、はそれすら知らない筈なのに私を庇ってくれた
傷を負ってまでも助けてくれたよね
――― ・・・、全てを話しても・・・ずっと嘘を吐いていた私でも・・・は、私の友達でいてくれる・・・っ?
黒主学園の夜間部、ナイト・クラスに在籍する生徒はみな夜の世界を支配する吸血鬼
そして10年前、吸血鬼に襲われそうになった自分を助けてくれたのも吸血鬼だと優姫は月の寮の門を見上げた
わからない事、知らない事、もっと吸血鬼の事を理解したいと思い足を運んだ夜の闇に紛れた月の寮
ジャキン ――― !
何だか頬が引き攣るような音が隣から聞え優姫はバッと振り返った
そこには殺る気満々といった表情の零が血薔薇の銃(ブラッディローズ)のセーフティーを解除していた
「待った!零!撃つ気まんまんでナイト・クラスの寮に行くのはヤメテ!・・・と、ちゃんと話せなくなっちゃうよ!」
「・・・それは向こう次第だろ」
連れて帰ろうとしたは、有無を言わせない支葵によって月の寮へと連れ去られてしまった
あの時の威圧感はやはり人間ではないと思い知らされる程に重く、そして冷たいものだったと優姫は思い出し手をキツク握り締めた
「・・・私、にちゃんと謝りたい」
「やっぱりお前達喧嘩してたのか・・・」
「喧嘩、って言うのかな・・・。ううん、私が一方的にに八つ当たりしちゃっただけ、だよ」
「・・・そうか」
俯いた優姫にそれ以上零は問いかける事は無かった
ただ黙って月の寮の大きな門の少し脇に入った場所にある、小さな入り口をくぐった
「・・・ここからは "月の寮″の敷地だよね・・・。なんかやっぱり独特の雰囲気・・・」
昼間とは違う、彼等の活動する闇の刻
さわさわと木々が揺れざあっと一際大きく木が揺れた
優姫と零は手にした戦う武器を一瞬にして相手に向ける
「――――― ・・・出迎えか、
低く冷たい零の声が闇に響く
「・・・一条のヤツに頼まれて仕方なくね」
「いちいちうちの連中にからまれないように護衛してやれとさ。間の悪い事に今夜は ―――― 」
銃口を突きつけられた架院は何もしないとばかりに両手を上げ
そして、その視線は静かに裏庭へと向けられた
「・・・月の寮の裏庭に、ナイト・クラスほぼ全員集ってる」
ざわめく裏庭へと足を進めれば、そこに集った吸血鬼からの視線が2人に突き刺さる
その視線は全て好意ではなく、中には悪意の篭もった視線も含まれていた
「やめておけ、お前がやられるぞ」
「・・・」
「厄介なのが脇にいる。藍堂英・・・そして架院暁、枢様の懐刀たちだ・・・」
聞える声を無視しようとしても、ジリジリと突き刺さる視線をないものとするのは到底出来そうに無い
学園の中とは違う顔
制服を脱いだ真夜中の彼等は、まさに "本当の吸血鬼としての顔″がここにあった
「―――― ・・・いらっしゃい。優姫ちゃん、錐生くん!」
キラキラとまるでそこだけ別世界を築く一条が、今日は自分の誕生日パーティーだと吸血鬼らしくない笑みで2人を向えた
思わず "いくつになったんですか″と聞いてしまった優姫はハッとして表情を固くした
自分達はそんな事を聞きに来たのではないと
「一条センパイ、私達は風紀委員として今日の事を聞きたいんです!・・・それに、を返してください・・・っ」
「・・・ちゃんだったらもう大丈夫だよ」
「本当ですか!?」
大丈夫だと言われ優姫は身を乗り出すようにして表情を明るくした
優姫の一歩後ろに自分を睨み付ける零に、一条は少しだけ困ったように微笑んだ
「今は支葵が彼女と一緒にいるよ。・・・後でここへ連れて来る事になっているから、来るまで待ってくれるかな?」
「そう、ですか・・・。わかりました」
すぐに会えない事に少しの落胆を見せたが、零に軽く背中を突かれ目を伏せた
もうひとつ確かめなければいけない事がある
それは風紀委員として、彼等の裏の顔を知っている自分達だからこそ確かめなければいけない
「一条センパイ、昼間の事を聞かせて下さい・・・」
「・・・いいよ、何でも聞いて?この場にいるみんなが知っている事だから」
「・・・街中をあんな危ないヴァンパイアがうろつくなんて普通ありえませんよね?」
見た事もない吸血鬼
あんなに狂気を宿し、人間を襲う吸血鬼が街中を徘徊してるなど、自分の知らない何かがあると優姫は真っ直ぐに一条を見た
「それに一条センパイ達はわざわざ彼を殺しに来たんですよね・・・?・・・あのヴァンパイアは、何なんですか?」
知らなければいけない
理解したいと思うのなら、怖くても聞かなければいけない
そっと目を伏せた一条の変わりに口を開いたのは優姫の少し後ろにいた藍堂だった
「あれは "元人間″の
「藍堂!」
宥めるような一条の声に藍堂はふんっと顔を背けた
初めて聞く言葉に優姫は顔を顰める
「優姫ちゃん、僕達の世界はね、頂点に立つ数人の "純血種″と一握りの "貴族階級″の
"ナイト・クラスは全員貴族階級以上なんだけど・・・″と一度そこで言葉を区切った
元人間の吸血鬼は大事にされていないのだと一条は言った
一条も優姫も零の表情に影が落ちた事には気付かない
「僕が殺した
「・・・レベル、E・・・?」
優姫は戸惑ったような声を漏らした
「正確には<LEVEL:END>だ。それくらい隣にいる錐生が知ってるんじゃないか?
一条の言葉に付け加えた架院の言葉に、優姫はハッとしたように零を見た
今の話を聞いて気付かないほど優姫は何も知らないわけじゃない
「・・・ "元人間″は遅かれ早かれ必ずその<レベル:E>に堕ちるんだ・・・優姫」
「かなら、ず?」
「徐々に理性を蝕まれ "END″――― 限界、破滅・・・そこに行くつく」
「・・・っ」
「そう・・・。そして際限なく血に餓え、手当たり次第に人を襲うようになるんだ」
零の言葉、一条の言葉、次々に頭に入ってくる情報を理解するのは難しかった
ただ必死に頭に詰め込んでいく
「だからこそ、 "元人間″の
一条は目を伏せた
管理する側である彼もまた、何か思う所があるのだろう
しかし、いくら管理していてもアクシデントというものは常に日常の中に付き纏う
今回のように監視下から逃げ出すものも多くは無いのだ
「――― ・・・今日、この街に<レベル:E>の
突然聞えてきた声
ナイト・クラスの者達がざわめき、その場にいた全ての者の視線が集まる
「一条と支葵にはそれを狩りに行ってもらったんだ。・・・ ――― 僕の、命令でね」
静かな声
しかし、誰もが口答えなどできる筈の無い、玖蘭枢が夜会へと姿を見せた