何だかふわふわとした空気のままホテルに戻りもう一泊してから、あたし達は黒主学園に戻るために山を下りた
電車の中で普通に携帯に出た千里に驚きつつも、一条さんとやらからの呼び出しだと千里は嫌そうに携帯を切った
それだったら先に学園に戻ろうとしたけれど千里に止められた
すぐに済むからと言って待たされる事10分、喧嘩?したまま話していない優姫の悲鳴が何故か裏道の奥から聞えた






"何か遭ったら、すぐ鳴らして″と言われて、その場で登録した支葵のメモリーを表示させたままの携帯を握り締める
微かだけど聞えた優姫の悲鳴
陽の光が届かない裏道
この先にもし、優姫がいるのなら関わらないと決めた事に関わる事になるかもしれない
そう思うとはその一歩を踏み出せなかった



「・・・っ」



その頃、がいる位置から奥へと入った先にはの予想通り黒主優姫、そして錐生零の姿があった
理性を失い血に餓えた獣と化した元人間の吸血鬼 ――――― ・・・レベル:E
優姫を守るように立ちはだかる零の手には、優姫が理事長から渡された狩りの女神、アルテミスが握られている
不気味なしゃがれた声を吐き捨てる目の前のソレに、零がグッと構えた瞬間、目の前のソレは他の何者かによって消された



「えっ・・・あなたは・・・!」



さらさらと灰になっていくソレを目の前に、鈍く光る日本刀を鞘に納めた
突然の事に優姫は目を見開いた



「完了、っと」
「・・・別にオレ、必要なかったじゃん」

「――― ・・・ナイト・クラス・・・一条拓麻センパイ、支葵千里センパイ・・・どうして、こんな所に・・・」



唖然としたような優姫の声が、静かになった裏路地に響く
ただ、零だけは睨むように一条と支葵の2人を見ていた
そんな零の態度に一条は少し困ったように微笑んで、優姫の右腕を軽く視線で示した



「優姫ちゃん、ダメだよ。早く戻って傷の手当てをしておいで。・・・僕たちの嗅覚には刺激的過ぎる」



ハッとしたように、零を追いかけていた時に鉄で切ってしまった右腕を押さえた
人間の何倍も鋭い嗅覚を持つ吸血鬼
小さな傷でも、その傷口から流れる血の匂いは吸血鬼の本能を呼び覚ます



「・・・別に、美味しそうじゃないじゃん」
「支葵?」



小さく漏らした支葵の言葉に、聞えなかった一条が聞き返すが "なんでもない″と言って支葵は背を向けた
もうここに用は無い
を1人待たせているのだから早く戻りたいと、背を向け一歩踏み出した時だった



「支葵?携帯鳴ってるよ、って・・・ ――――― ・・・支葵!?」



ディスプレイを確認した瞬間、支葵は一瞬でその場から消えた
見間違う筈も無い登録したばかりの名前がそこに表示されていのだから
事情を知らない残された3人はぽかん、とさっきまで支葵の立っていた場所を見つめ首を傾げた



「・・・っ優姫、下がってろ!」
「え?零?」
「さすが錐生くん、反応が早いね。・・・支葵も、何か感じたのかな」
「え?一条センパイまで・・・・っ!!!」



吸血鬼同士にしかわからない波長
人間である優姫は身構える2人に首を傾げたが、ゆらりとビルの非常階段に姿を見せた影達に息を呑んだ



「・・・なに、これ・・・っ」
「優姫、下がってろ。動揺してる今のお前が相手出来る奴じゃない」
「・・・で、でも・・・!」
「優姫ちゃん、僕も錐生くんに賛成だよ」



声にならない声が狭い裏路地に響く
恐怖からか優姫の身体は小刻みに震える
吸血鬼を恨む零だが、今はそんな事を言っている場合ではない

   ――― ・・・狙いは、間違いなく黒主優姫

血の匂いに引き寄せられたのだろう、狂気を宿した元人間の吸血鬼達
一条と零は優姫を守るようにして立ち顔を見合わせると、同時にコンクリートの地面を蹴った








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