「、手伝ってくれるのはママも嬉しいんだけどね?・・・う〜ん、それはちょっと食べられないんじゃないかな?」
「どうして?」
「え・・・。あ、あのね・・・パパもママも、勿論も、お砂のお団子は食べられないのよ?」
「でもパパ食べてくれたよ?ほら、おなかいっぱいって言ってねんねしてるよ」
子供とは時に残酷な事を口にする
可愛い娘が笑顔で "パパのためにつくったの!たべて?″なんて言われたらどんな父親だって逃げ道はない
当然の父親も引き攣った口元を隠す事は出来ず、だからと言って逃げ道を作る事も出来ず・・・
「おそといってくるー!」
パタパタとリビングから庭へと繋がる大きな窓から飛び出していく小さな背中を見送る
ソファーで死んだように眠る父親は、立派な父親なのかそれとも娘に甘い父親なのか・・・
「・・・あのね、本当に食べてあげる事があの子の為じゃないのよ?」
「・・・わか、ってる・・・っうぇ」
「あの子がこれから先、恋人に砂のお団子を差し出したらあの子が恥をかくのよ?」
「に恋人なんていらん!はパパと結婚するって言ってくれたからなぁ!」
「・・・そんな甘い言葉をくれるのも今の内だけよ。ほら、早くトイレに行って吐いて来なさいよ」
「・・・いやだ・・・うぇっ・・・が俺のために・・・っ作ってくれたんだからな・・・!」
心底呆れたような視線にもぐっと耐えてソファーに丸くなる姿は情けない
開け放たれた窓から聞えてくるのは、この世で一番大切な愛娘の可愛らしい声
自然と2人の表情も柔らかく、そして優しく微笑みを浮かべる
「あの子が大きくなって、あなたよりもカッコいい恋人を作って、・・・最も愛する人と結婚する未来・・・見てみたいわね」
「俺よりもカッコいいってのが気になるけど・・・まあ、そうだな。には、幸せになって欲しいよ」
「・・・あなた、もうすぐの誕生日よ」
「心配するなって。ちゃんと手は打ってあるんだ。・・・いざとなれば、俺がいるからな」
「あら、私もいるのよ?あの子の事は、いくらあなたに止められても黙って見ているなんて出来ないわよ」
揺るがない瞳
小さく "・・・そう、だな″と口にして、庭を駆け回る小さな少女に目を向ける
どうか幸せになって欲しい
いつまでもその笑顔を忘れずに、自分達に光りを照らしてくれたように、いつか・・・
+++
ドクン、ドクン、と高鳴る心臓
古びたドアを開ければふわりと埃が舞った
「――――― ・・・ぁっ・・・」
ズルズルとドアに手寄り掛かるようにして座り込む
フラッシュバックした記憶はなんて事ない日常の中のひとこま
幸せで、温かくて、優しい笑みが溢れる大切な思い出のひとつ
思わず掴んだ棚にひかれていた布を掴み引っ張れば、上に置かれていた写真立が派手な音を立てて床へと落ちた
「・・・だ、め・・・っ」
自分の身体を抱きしめて、ぎゅっと眉を寄せた
カタカタと震える身体を止める事が出来なくて、ただ押し寄せてくる波に耐えるように口を強く結んだ
その時、ガラスが割れ吹きさらしになっていた窓枠にスッと影が落ちた
「――――― ・・・っ!?」
「・・・っせ、ん・・・り・・・っ」
蹲り弱々しく自分の名前を呼ぶに、支葵は身軽にベッドを飛び越えるとそのまま小さな身体を抱きしめた
腕の中で震え何かに怯えるように肩を揺らす
今まで見た事もないの異変に、支葵はどうしたらいいのかわからず兎に角を抱き上げ窓から飛び降りた
自分の首に腕を回し時折漏れる吐息
泣いているのだと、わからないほど支葵も鈍感ではない
目の前の朽ち果てた建物から離れようかとも思ったが、それは何故か気が引けてさっきまで自分が居た木の下に抱き抱えたまま腰を下ろした
「・・・、もう、大丈夫」
何が大丈夫なのか、それでも支葵はゆっくりとの背中を一定のリズムで擦った
ぽろぽろと零れ落ちる涙の雫が支葵のシャツに染み込んでい
「――――― ・・・ っ・・・」
声を上げて泣くわけでもなく、ただぐっと我慢するように揺れる肩
ぽつりとが零した名前に支葵は目を見開いた
だけど、今のに問いかける事などできず、支葵はただ抱きしめる事しか出来なかった
空の色がオレンジ色へと変わる頃、泣き疲れて眠ってしまったは目を覚ました
ふわりと香ったカシスの匂いに "・・・なに?″と顔を顰め、ゆっくりと視線を上げた先
自分を抱いたまま木に寄り掛かり眠る支葵の顔があった
「っ千里・・・!・・・あ、れ・・・あたし・・・・」
足元に置かれた白い百合
ぼやけた頭がだんだんとハッキリしてくる
そして、あの部屋に入った瞬間に浮んだ記憶に押し潰されそうになった事を思い出しハッと顔を覆った
"まさか、泣き顔見られるなんて・・・っ″とわたわた暴れるに、当然腕の中で暴れられれば支葵の目も覚める
「・・・」
「・・・あ、おはよ・・・千里・・・」
「・・・あ、れ・・・オレ、寝てた・・・?」
キョトン、と首を傾げる支葵に思わず笑みが零れる
ずっと抱きしめてくれていた事が何だかくすぐったくて、は小さく "ありがとう″と言って立ち上がった
「もう、大丈夫?」
「・・・ん、ごめんね。ちょっと色々思い出しちゃって、パニック起こしただけだから」
「・・・ふーん。まあいいけど、その花どうするの?」
「あ、うん。これは・・・千里も、一緒に行こう?」
1人で行けばまたパニックになってしまうかもしれない
これ以上何も知らない支葵に迷惑はかけられないと、座り込む支葵を見下ろす
「オレも、行っていいの?」
「・・・一緒に来てくれると、嬉しいかな」
「へぇ、なら一緒に行く」
立ち上がった支葵が自然に、当たり前のようにの手を取った
驚いたように見上げたに支葵は "なに?″と首を傾げる
自分を気遣ってくれてるのかとは小さく笑って首を横に振った
「この家のね、裏なんだ」
「裏?」
「うん、そう。――――― ・・・ここがね、あたしのお父さんとお母さんのお墓なんだ」
「・・・え?」
家を半周ぐるっと周って、小さく川の流れる音が聞える静かな場所
緑豊かなその場所にひっそりと立つふたつの墓標があった