数日姿を見せなかった零が教室にやっと顔を出した
何だか少し雰囲気が変わった気がする
それは零だけじゃなくて、優姫が零を見上げる眼差しも何だかいつもと違う気がした
長くは続かないと思っていたけど、まさかこんなに早くその時が来るとは思わなかった

   ――― 何も知らないフリをするのも、そろそろ限界だよ・・・零、優姫・・・






週末の外出許可を貰いに訪ねた理事長室
零が居たのにはビックリしたけど、構わずあたしは外出許可を貰う為の書類を差し出した



「週明けには戻ってきますから」
「・・・」
「なんですかその無言の訴えは・・・」
「・・・だって週末って言うとデイ・クラスの子達もお休みでしょ?だから、何かあった時にちゃんが居てくれると助かるなぁって!」
「あたしは風紀委員じゃございません。判子下さい理事長」
「そんな事言わないでさ?ね?ほら、錐生くんからも言って!」



これ以上関わりたくない
関われば、あたし達の間にある細い糸が切れてしまうと思う
大切な友達だと思うから、これからも友達として傍に居たいと思うから、もうあたしは関わらない



「夜間部が何を隠してるのか、何が起こってるのか知りませんけど、あたしを巻き込むのは今度一切止めてください」



眼鏡の奥の瞳が微かに細められたけど、あたしは視線を逸らしはしなかった
あたしは零や優姫、玖蘭先輩が抱えてる苦しみも悲しみも、背負っている物の大きさもわからない
だけど、その逆だってあるんだよ
何も言ってもらえない事に寂しさを感じない筈ない
何か理由があるのかもしれないけど、隠してる事に気付きながらこれ以上笑えない
これ以上あたしが優姫達に不信感を覚えないうちに関わりを断ちたい



「・・・帰宅時間は、ちゃんと守ってね」
「ありがとうございます」



判子を押してもらった書類1枚を受け取って、何か言いたげにこっちを見る零に気づかないフリをして部屋を出た
手にした書類に目を通せば外出許可は今日から承諾されている
これは少しの恩返しなのか、明日出掛けようと思っていたけれど今から行ってしまおうと寮へ向う





「――――― ・・・!」



校舎から出てすぐ名前を呼ばれた
振り返らなくたって、その声が誰のものかすぐにわかる
振り返れば少し顔色の悪い零が少し離れた場所にいた



「零、顔色悪いよ?また薬飲んでないんでしょ」
「・・・、お前・・・」
「ん?」
「・・・優姫と、なんかあったのか?」



チラッとあたしを見てすぐに零は視線を逸らした
"何か″とはまさしく、昨日の喧嘩・・・と呼べるのかどうかわからないけど、あの時の事だとすぐわかった
あれから優姫とは話してない
あたしは避けているつもりはないけど、優姫は明らかにあたしを避けてるみたいだった



「別に何もないけど?」
「・・・じゃあ、何で行き成りあんな事言ったんだ?」
「あんな事って?」
「さっき理事長に言っただろ。もう巻き込むなって」
「巻き込まれたくないって思ったから。・・・何もわからず、何も知らずに、危険な事に足突っ込むような事はしたくないだけだよ」



話して欲しいと思うけど、別に無理して話して欲しいわけじゃない
ただ、何も知らないのに巻き込まれたくないだけ
言う気がないのに都合の良い動ける人間として、そんな扱いを受けるのが嫌だ



「・・・それは、俺達とも距離を置くって事なのか?」



絡んだ視線の先にある瞳が微かに揺れる



「・・・あたしが "Yse″って答えたら、零はどうするの?」



目を丸くした零に思わず口元に笑みが浮ぶ
何も言えない、だけど手を貸して欲しいだなんて都合が良すぎるんだよ
何も知らず巻き込まれる方の身にもなってよ



「あたしは、優姫も零の事も友達だって思ってるよ」
「俺達とは距離を置かないって事、だよな?」
「うん、今まで通りそれは変わらない。だけど、あくまで "友達レベル″でしか、今のあたしは付き合っていけないよ」
「・・・っ」



それ以上を求められてもあたしは答えられない
何を隠してるのか知らないけど、理事長まで絡んでるって事は小さな事じゃないんでしょ?
今まで色々気になる事はあったけど気づかないフリをしてきた
だけどそれも、もう限界だよ



「――― ・・・話したら・・・・は、変わらないって・・・そう、言えるか・・・?」



話す気がないのにそんな事を言う零は、それも零の優しさなのかもしれない
だけどそんな "あたしを疑うような目で言われても″あたしは嬉しくない



「零、何を求めてるの?」
「・・・それ、はっ」
「何も聞かずに、手を貸してくれる事を求めてるなら ――――― ・・・・それは、都合が良すぎるよ」
「・・・っ!!」
「全て知ってる優姫がいる。・・・・それで満足しなよ」



驚き目を丸くした零に気づきながらも、あたしは背を向けて歩きだした
少し嫌味っぽかったかも知れない
わかってはいたけど、これくらい許してよ

   ――― 何も教えてもらえずに、傍に居るのは辛いんだよ・・・?








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