――― ・・・なくなよ、おれがそばにいるだろ?おれじゃいやなのか?
まだ声変わりもしていない高い声
だけどとても優しくて、泣き続けるあたしをずっと抱きしめてくれた小さな身体
あの頃はもっと素直で "悲しみ″も "寂しさ″もさらけ出す事が出来たのに、いつの間にか出来なくなってしまった
それは、君が遠い存在になってしまったからなのかな・・・?
「零、顔悪いよ?」
「・・・ "色″を抜くなよ」
「いや実際に今の零は極悪人みたいな顔して ――― ・・いだっ!」
「悪かったな、極悪人面で!」
鞄で軽く頭を叩かれは不満気に声を上げる
立ち上がった零はの前に座っている優姫の名を呼んだ
風紀委員は日夜ナイト・クラスの秘密を守る為に動いている為、風紀委員の優姫と零が授業中に寝ているのはいつもの事だ
「んー・・・?・・・なにー?零・・・」
「先に行ってるぞ。お前もさっさと補習終わらせて走って来いよ」
未だにボーッとする優姫を置いて教室を出て行く零は心なしかふらついている
微かに目を細めたは、もう一度眠りに落ちそうになっている優姫の頭を軽く突いた
「なに、また寝不足?」
「んー・・・なんか、懐かしい夢見ちゃった」
「懐かしい夢、ねぇ」
「?」
「ん?いや、あたしも今日懐かしい夢みたなぁって」
「えぇ!?も!?うっわぁ、それってすごい偶然だよ!」
行き成り覚醒した優姫に引きつつも、は "そうだね″と笑った
妹のような可愛く素直な優姫
中学の時から、この黒主学園で共に学んできた友達
「・・・ねえ、」
「うん?」
どこか遠くを見つめるような優姫に、は立ち上がり優姫の隣へと腰を下ろした
「・・・今日の零、顔色悪いと思わない?」
「あ、さっき零に "顔が極悪人みたい″って言ったら殴られたよ」
「極悪人って・・・。でも、もやっぱりそう思うよね?」
「うーん、まあ零も年頃だし色々あるんじゃない?」
「は何か聞いてない?零、私には何も言ってくれないから・・・」
俯いた優姫の横顔はとても寂しそうで、はチクリと痛みが走る
中学から優姫と零の関係を見てるにとって、2人は "脆い何かで繋がる不安定であり安定した関係″だと解釈していた
「・・・優姫にも言わない事、零があたしに言うわけないよ」
「で、でも・・・!・・・なんとなく、だけどね・・・零は、私よりもの方が心を許してる気がするんだ・・・」
「それはあたしが優姫よりも、零を心配して無いからじゃない?」
「え?、零が心配じゃないの?」
「違う違う。そうじゃなくて、心配してるけど優姫よりも付き合いは短いし、知らない事も多いから、話やすいって事もあるんじゃない?」
宥めるように優姫の頭をそっと撫でた
とても不思議な関係は見ていて居心地が良い時もあれば、ハラハラさせられる時もある
それでも優姫と零の関係は他人が入り込めるものではないと、は思っていた
「さて、あたしはそろそろ携帯を探しに行くから補習頑張ってね?」
鞄を持ち席を立つ
ひらひらと無常にも去っていくに、優姫はガクッと肩を落とした
失くした携帯
零の携帯を借りて電話をしてみたが誰も出なかった
誰かが拾ってくれている事を祈ったが、誰も出ないと言う事は落ちたままの状態で放置されている可能性が高いだろう
あの日の夜の行動を思い返しつつ、私服に着替えたは校内を彷徨った
「確か玖蘭先輩に会った後、携帯開いた気がするような・・・しないような・・・」
元々携帯に関してあまり愛着の無い
おぼろげな記憶を頼りに理事長室から自分の寮への道のりを歩く
その後は・・・と記憶を探り、昼間に零と話をした場所へと向う
オレンジ色から闇へと姿を変えても、失くした携帯を見つける事は出来なかった
「うーん・・・・後は、まさかとは思うけど支葵先輩のとこか・・・?」
ぽややんとしている彼ならば、携帯をあの部屋に忘れてもそのまま気づかず放置の可能性は高い
しかしだからと言って風紀委員代行を終えたが自分で月の寮に取りに行けるわけがない
携帯に電話した所で放置されているのであれば誰も出ないだろう
「・・・玖蘭先輩に頼むって言っても、まさか支葵先輩の空気にほわほわして寝ちゃったとは言えないもんなぁ」
どうしたものか、と月の出る空の下では腕を組み首を傾げた
最悪デイ・クラスとナイト・クラスとの切り替えの時に聞くしかないと、はそっと溜め息を零した