吸血鬼は "人の血″を好み長寿で夜行性
獰猛な一面もあるが、大概その姿は美しく気位は高い
優れた知能と身体能力を持つ者達
「――――― ・・・まあ、デイ・クラスの子たちがわーきゃー騒ぐのも無理ないさ・・・」
窓の外から見える月の寮へと続く門の前の騒ぎ
これはナイト・クラスの授業も遅れてしまうだろうと黒主理事長はカーテンを閉めた
「・・・さて、零?」
理事長室に短く荒い息遣いが響く
壁を背にぐったりと座り込む錐生零は、カーテンをグッと掴み襲い来る欲望の波を耐えていた
「避けても逃げても何も変わらない。なのに君はいつも、ギリギリまで無理をして・・・」
「・・・やかましい・・・っ!・・・・はっ・・・あっ!」
自分の身体を掻き抱くようにして荒く乱れる息
どうしても抗えない "吸血鬼″としての欲望
今まで良く耐えたものだと、苦しむ零を見て黒主理事長はグラスに水を注いだ
そしてぽとっと白く小さな錠剤をグラスに落とし、それを零に差し出した
「零、楽になるから飲みなさい」
「・・・っ中身は」
「君の知ってるものだよ」
その瞬間、零は震える手で黒主理事長の腕事振り払った
グラスが割れ赤く染まりかけていた液体が床へと落ちる
苦しみながら "絶対に嫌だ″と拒否を示す零に、黒主理事長はそっと目を伏せた
「・・・最近発作の感覚が急に短くなっている。このまま拒み続けたらもっと辛くなるだけだよ。もう、今まで通りには ―――・・・」
黒主理事長は最後まで言い終わらずに言葉を切った
ギュッと眉を寄せ自分の身体を抱く零は、それ以上言わなくともわかっていた
自分の身体が既に限界だと言う事
もう、誤魔化し続ける事は出来きない
いずれ自分は、憎むべき吸血鬼になるのだと
「・・・っ」
ふらふらと部屋を出て行こうとする零を黒主理事長は黙って見送った
本当は今すぐにでも、無理矢理にでも飲ませなければ手遅れになるのかもしれない
しかしそれはどうしても出来ず、黒主理事長はカーテンの隙間から1人奮闘する愛娘を見下ろした
こんこんっ
ふと訪問者を知らせる音
声をかければ、ドアの向こうから聞こえたのは意外な人物だった
「・・・突然すみません。話があるんですけど、いいですか?」
初めての訪問者に黒主理事長は目を丸くした
どうしてナイト・クラスの彼が自分の元を訪ねて来るのか
取り合えず話があるという彼にソファーを進め、自分も向かえ側のソファーに腰を下ろした
「えぇっと・・・話って、何かな?」
入学の時の誓約の時以来、こうしてナイト・クラスの生徒と話すのは玖蘭枢以外初めてだと少し緊張しつつ問いかける
彼は少し考える様に瞳を揺らしてから、ゆっくりと口を開いた
「――――― ・・・デイ・クラスにいる、について聞きたいんですけど」
思ってもいない名前が飛び出し黒主理事長は目を見開いた
話があるとしたら、風紀委員の事か学校の事についてだと思っていたが出てきたのは何でもない普通の生徒の名前
今日まで1週間風紀委員代行をしていた
しかしそれも、優姫と零と一番仲が良い事と、運動神経が良いと言う理由で玖蘭と共に決めた事
当然彼女はナイト・クラスの生徒が吸血鬼だとは知らない
「どうして、ちゃんの事を知りたいんだい・・・?」
そんな疑問を持つのは当たり前だった
は出待ちをするような生徒でもなく、ナイト・クラスの彼が名前を知っている事そのものが不思議な事
どうして?と問うた黒主理事長に、彼は少し言葉を濁しながらも口を開いた