年に1度の聖ショコラトル・デー
女の子達が浮き足立つ日、といっても黒主学園の普通科(デイ・クラス)の女の子達は常に浮き足だってるけど・・・

ちゃん、今日は1日お願いしたいんだけど大丈夫?」
「嫌ですって言っても無理だってわかってるんで、あたしの答えは "イェス″ですよ理事長」
「ごめんねぇちゃん。条件はそのままだから、優姫と錐生くんにはボクの方から言っておくね」

今日は朝から夜の見回りが終わるまでは気を抜かず、腕章は常に身に付けておく事
一応理事長に頼まれたのだから断る事はしなかった
だけど本音を言えば、優姫と零が本当に手を付けられなくなるまで表に出る気はまったくもってないのだ

「そういえばちゃん、携帯に電話しても繋がらないんだけど、どうかしたのかい?」
「・・・携帯なくしました」
「えぇ!?な、なくしちゃったの!?もしかして、あの日の夜に?」
「最後に理事長にメールを送った記憶はあるんですけど、その後の記憶がサッパリ・・・。まあ、何かあったら零に伝えてください」






!チョコ用意した?」
「・・・何そのキラキラした瞳。さり気無く "チョコよこせ″とか言ってる?」



明らかにギクッとした優姫に、同じ歳なのにも関わらず妹みたいだとは小さく笑った
案の定わたわたと慌てだした優姫にポケットに手を入れる



「そ、そんな事ないよ!・・・そ、そりゃは私と違って料理上手いから・・・ほんのちょっと、欲しいなぁとか思ったりも・・・痛っ!」



こつん、と額に硬いものが当たりぽとっと手に落ちる四角い箱
綺麗にラッピングされた箱は聞かなくてもわかる
目を丸くして見上げる優姫に、はニヤリと笑う



「愛してるよ、麗しの姫君」



可愛らしいリップ音が鳴り、ピシリと優姫が額を押さえ固まった
小さく溜め息が聞こえが視線を上げれば呆れ顔の零がいた
手に持っている紙切れは零が愚痴っていた "小学校から変わらないパシリ券″だとすぐにわかり吹き出した



「嬉しそうだね?零」
「・・・こんなもん貰っても嬉しくねぇよ」
「素直じゃないねぇ。ほれ、倍返し期待してるから」



優姫に渡した物よりも小さい箱を投げれば、零はパシッと受け取り顔を顰めた
"倍返しじゃ済まない癖に・・・″と小さく漏らせば、はその通りだと言わんばかりに微笑んだ



「じゃあ、風紀委員の仕事頑張ってね?何だか今日は朝から騒がしいみたいだし」
「お前はどうするんだ?」
「零!」
「大丈夫だろ。優姫の奴、まだ固まってるから話なんて聞こえてないだろ」
「・・・あら、ホント。そんなに衝撃的だったかな?」
「免疫ないんだからあんまりからかうなよ」



零は呆れたように優姫の後頭部を軽く弾いた
いつもならば向きになって零に突っかかっていく優姫も今日ばかりは真っ赤な顔のまま反応無し



「あたしは一応影で動くけど、零達が手に負えなくなるギリギリまでは出ないからね」
「俺は元々反対だったからその方がいいけどな」
「そうなの?」
「・・・その左腕が証拠だろ」
「まあ、これは自分の不注意だけどさ・・・。んま、兎に角頑張ってね」



ひらひらと手を振って、行き止まり向うに零が首を傾げた瞬間
は迷いも無く2階の窓から飛び降りた
の運動神経の良さは知っているが、スカートなのだから少しは恥を持てと零は溜め息ひとつ零した



「おい優姫、いつまでもボサッとしてんなよ。行くぞ」
「――――― ・・・っ!!あ、あれ!?は!?」
「お前がボサッとしてる間にどっか行ったぜ」
「えぇ!?ま、まだお礼も言って無い!それに私だってに渡したかったのに!」
「・・・そんなの後で良いだろ。どうせ教室で会うんだから」



優姫がポケットから出した紙切れに零の頬が引き攣った
いったいにはどんな券を渡すのか、渡した時の引き攣るだろうを思い浮かべ小さく笑みを零す



「どうしたの?急に笑うなんて気持ち悪いよ・・・」
「うるせぇ。さっさと・・・っ!!」
「零?」
「・・・っ先にいって、ろ・・・」
「え?で、でも・・・」



ドクン、ドクン、と波打つ心臓
壁に手をつき胸元を押さえる零に優姫は心配そうに手を伸ばすが、パシッと振り払われてしまう



「零?どうしたのっ?」
「・・・なんでも、ないっ」
「あ、零!!」



裏を返し足早に長い廊下の向こうに消えた零の背中
追いかけようと一歩足を踏み出すが、振り払われた手を見つめそれ以上足を踏み出す事が出来なかった



「・・・最近の零、おかしいよ」



拒絶される事はなかったのに、最近の零は何かを隠し触れようとすると拒絶する
それがどうしてなのか優姫にはわからなかった
勿論、零が誰にも隠し苦しんでいる理由も・・・








     ⇒ Next Story