目が覚めたら見慣れた寮の天井が見えると思った
あれは夢だったんだ
いつもと変わらない朝を向えて親友達と笑い合って過ごす1日が始まると
そう、思いたかった
Love can move mountains. No.02 君の言葉を信じるしかない
ぼんやりと霞む視界
ぼうっと上手く働かない頭でも、寝起きだという認識信号は確かに発している
寝慣れないベッドでも意外と自分は寝られるんだと、ジェームズは上半身を起こし軽く目を擦った
「起きたの?」
聞こえた声に、一瞬戸惑って、あぁそういえばと思い出して声の主を確かめようと眼鏡をかける
机に向ってキーボードを打つを怪しげにジェームズは見つめた
「おはようジェームズ。珈琲でいい?」
「おはよう。ブラックで頼むよ」
「了解」
の座っていた椅子に腰掛けて、まだ上手く働かない頭でジェームズは目の前に浮かぶ透明な板の様なものに首を傾げる
何やら意味不明な文字の羅列は主席のジェームズにもさっぱりわからなかった
戻ってきたがことり、と湯気の立つカップをテーブルに置いて向かえ側の椅子へと腰掛けた
こくんと咽喉を通せば豆の香りと共にゆっくりだが目が覚めてくる
「・・・ここは、地球ではないんだよね」
ハッキリしてきた頭で、混乱したまま昨日は聞く事が出来なかった
眠る前に見た窓からの景色はいつも見る空となんら変わりはないのに、それは人工のものだとは言った
「信じられないのは無理ないけど、あたしもそうだったしさ」
「も?」
カップを置いて、は小さく笑ってクッキーに手を伸ばした
未だに混乱してるジェームズは兎に角落ち着こうと珈琲を咽喉に通すが味なんてわからない
しかしふと、未だに少し信じられずにいる自分とは正反対に妙に落ち着くに首を傾げる
余りに落ち着く彼女の様子は、まるで前例があったかのようで・・・
「・・・、どうして君はそんなに落ち付いているんだい?」
ふっと顔を上げて、真剣に問うジェームズにはキョトン、としてからあぁと口を開いた
「あたしも、元々この世界の人間じゃないから」
「・・・え!?」
前例があったのかも知れないとは思ったが、まさか自身がそうだとは思わずジェームズは珈琲を吹き出しそうになり慌てて飲み込んだ
ケラケラと笑うは無邪気で、やっぱり美しい!とジェームズの瞳がキラリと光った
「も、この世界の人間じゃないのかい?」
「そうだよ?あたしがこの世界に来たのは、うーん・・・3年くらい前かな。やっぱりジェームズみたいに、初めは信じられなかったし戸惑ったよ」
「3年!?それはまた長いね・・・。は帰らないのかい?」
「あたしは元々世界をふらふら旅してたから、世界が違っても同じかなってさ」
「寂しく、ないのかい?ご両親だって、元の世界にいるだろう?」
「あたしの両親もふらふらしてる人だからね」
理解しがたい、暢気というのか楽観的というのか、あっさりとしたの考えにジェームズは驚かされた
ふわりと微笑むは席を立つと、閉めっぱなしだったカーテンを開ける
朝日が差し込みジェームズは目を細めた
「ジェームズ、大丈夫だよ」
窓を開け、両手を窓枠につけたまま振り返らずには優しげな声色でそう言った
「ジェームズの話が嘘だとは思えない。こっちとあっちを繋ぐものが、今ここにある。すぐには無理だけど、きっと帰れるよ」
「・・・どうやって?」
「魔法使いなんでしょ?だったら、ジェームズが姿を消した事に気付いた先生か誰かが、戻してくれるよ」
「でも、こんな、誰も信じるとは思えない・・・」
「それは信じてもらう為にね、手紙を送るんだよ」
振り返って、まるで悪戯を思いついた子供のように無邪気に笑う
ぽかんとするジェームズを横目には後で説明すると言って、さっさと着替えを持ってシャワーを浴びるために部屋を出て行った
+++
「、この世界は凄い事ばかりだよ!」
「わかったからジェームズ、そろそろ雨が降る時間だから中入ろうよ」
「雨が降る時間?」
「空は全て人工って言ったでしょ?雨もね、週に1度決まった時間に降るようになってるんだ」
ほら、曇ってきたでしょ?と空を見上げるの視線を追うようにして空を見上げれば
今の今まで晴れていた空は灰色の雲がふよふよと何処からともなく現れた
朝が来て、太陽が昇り、雨が降り、月が昇って、星空になり、夜になる
それが自然だったジェームズは興奮気味に空を見上げ、はさっさと先にテラスから中へと入った
「う、わ・・・・・本当に雨が降ってきたよ!!」
「ハィハィ、濡れる前に中入ってジェームズ」
パラパラと空から降る雨に興奮し声を上げるジェームズ
まるで子供みたいだとは小さく笑った
「空の道に海の中を歩く道!街を架ける大きな道路!凄いよ!」
見るもの全てが、ジェームズにとっては新鮮で驚くものばかりなんだろう
自分も初めはそうだったとは紅茶を入れながら横目でジェームズを見た
がこの世界に来た3年前を思い出し、はジェームズに背を向けたままクッと唇を強く噛んだ
「!てれび?とやらをつけたいんだけど、どうやってつければいいんだい?」
かしゃん、とカップが揺れた
小さくの肩が揺れた事に、ジェームズはその洞察力で気づき、?と小さく名前を呼んだ
「・・・・あ、ごめんジェームズ」
「何だか顔色が悪いけれど、大丈夫かい?」
「平気、だよ。うん、テレビね。その前にちょっと、手紙の事話そっか」
曖昧に笑って誤魔化し、ジェームズの横を通り過ぎた
その背中は聞かないでと訴えているようで、ジェームズは一瞬視線を迷わせ
好奇心から来る問いかけをぐっと呑み込んでソファーへと腰を下ろした