「僕にも春が来た!」
「今は冬だよジェームズ」
「違うんだリーマス!僕に春が来たんだ!」
「リリーと何があったのか知らないけど、その逞しい程のプラス思考は少し直した方が良いと思うよ」
「僕は出会ったんだ・・・。そう、あの優しい微笑み!そっと触れた肌の温もり!あぁもう!どうしようか!」
「・・・ついにジェームズが壊れたよ、シリウス」
「・・・こいつが壊れてるのは出会った時からだろ」
「おや?なんだい、話を聞きたいならそう言えばいいじゃないか!本当は僕の胸の中だけにしまっておきたいけど、そうだね、しょうがない!」
「いや誰も聞いてねぇよ。つうかお前の妄想話は聞き飽きた」
「だめだよシリウス、変態顔しはじめたジェームズに何を言っても無駄無駄」
「・・・あぁ、明日テストなのにな」
「・・・ホントだよ」
Love can move mountains. No.01 古い暖炉に通じていたのは異世界でした
「やあリリー、今日も君の美しさに僕は眩暈がするよ!」
「あらポッター。そのまま地に臥したらどう?」
「やだなぁリリー!君を泣かせるような真似なんて出来るわけないだろう?」
「泣くわよ?けれど、悲しくて涙を流すわけじゃなくて、嬉しくて涙を流すのよポッター。どいてちょうだい!」
「あぁんリリー!そんなつれない君が好きだよ!」
素直じゃないリリーは今日も相変わらず綺麗だ!と、既に変態への階段を裸足で登り切ろうとする友人を横目に
シリウスは付き合い切れないと目の前のチキンを大量に自分の皿へと確保
そんなシリウスを横目に、どっちもどっちだよとリーマスは砂糖たっぷりの紅茶をこくんっと咽喉に通した
誰もが自分を普通だと思ってるだろう3人を、唯一の常識人ピーターが横目で見ながら
みんな個性的だなぁ、と優しいピーターはプラスに捉えカリカリのベーコンを口に含んだ
何気ないいつもと変わらない毎日が、ひょんな事から180℃回転するなんて
この時の悪戯仕掛け人達の誰が予想出来ただろう
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授業を終えて、悲しくも授業中に仕掛けた悪戯が思いの他大惨事に発展し
悪戯を仕掛けたジェームズは罰として使われなくなった部屋を掃除していた
窓の外は既に月が顔を出し、散りばめられた星達が静かに地上を見渡す時刻になっても掃除は終わらない
寒い寒いと古い暖炉に火を点けようとジェームズは暖炉へと近づいた
「この暖炉、まだ使えるのかな?」
埃を被ったような薪が積まれている暖炉の中は不思議なほど広い
ひょっこりと暖炉の中に顔を入れれば、グリフィンドールの談話室にある暖炉よりも数倍大きな暖炉はジェームズが中に入っても十分スペースがある
これに火を点ければすぐに暖かくなるだろうと
ジェームズがひょいっと暖炉から出ようとしたが、悲しいかな積み上げられた薪に躓きバランスを崩した
「うぎゃっ!!」
両手と頭だけ暖炉から出した状態で暫し固まるジェームズ
ジンジンと身体が痛むがそれよりも顔が痛い!と起き上がったジェームズは、先程の掃除が中途半端に終わっている教室ではない光景に首を傾げた
「あれ?フルーパウダーを使った覚えはないんだけどなぁ」
ぽりぽりと頭を掻いて、よいしょっと暖炉の中から這い出たジェームズは部屋を見渡した
暖かくこじんまりとした部屋の中には見た事もないような物ばかり
「どうなってるんだ?」
痛む顔を擦りながらゆっくりと部屋の中を歩くジェームズは、ギィッとドアの開く音に振り向いた
きっとこの部屋の主が帰って来たのだろう
マグルの家かも知れないと言う考えは何処へやら、ジェームズは事情を話して帰る方法を考えようと
しかしジェームズはドアから入ってきた部屋の主を見た瞬間、まるで石になったかのように全身の動きが止まった
「・・・!」
「・・・?」
ふるふると震えるジェームズと、出て行った時には誰もいなかった筈の部屋に人がいる事に首を傾げる部屋の主
後ろ手でドアノブを掴んだままの部屋の主・・・少女はゆっくりとドアを閉めると、近くのテーブルに持っていたカップを置き
未だに震えたまま自分を凝視するジェームズを見て、ここでなにしてるの?と極々普通の質問を投げかけた
その瞬間、ジェームズは瞬間移動でも使ったかの様なスピードで少女の目の前まで来ると
目を見開く少女の両腕を無遠慮に握り締めた
「君の名前は!?」
ここでシリウスやリーマスがいたのなら、何だか見た事がある光景だと漏らしただろう
しかし生憎と此処にツッコミを入れる2人はいない
ぽかん、としていた少女も余りの迫力に一歩後ろに下がりながら口を開く
「・・・・、だけど」
「?・・・っなんて素敵な名前!満月の夜にだけ咲く花のような君にはぴったりの名前だよ!」
「はぁ?」
「僕の名前はジェームズ・ポッター!末永くよろしく!」
「・・・頭、大丈夫?」
「あぁん!まだ僕は君の温もりを感じていたかったのに!」
腕を振り払ったの顔がぴくりと引き攣る
変態以外の何者でもない目の前のジェームズは実に残念そうに自分の両手を見つめていた
この人変態以前に頭おかしい、とは一歩一歩距離を取り、十分に距離を開けてからもう一度質問を投げかけた
「えっと、ジェームズ?」
「なんだい!ん?どうしてそんなに離れているんだい?あぁ、恥ずかしいのかな?やだなぁそんな恥ずかしがらなくてもいいじゃないか!」
「うんわかった、わかったからあたしの話を聞いて?っていうか質問に答えてくれないと、殺すよ?」
途端に暖かかった部屋の温度が急激に下がった
真っ直ぐに自分を見るは笑顔なのに、その笑顔には某甘党な友人を思い出すようでジェームズはぴたりと近づこうと一歩前に出した足を急停止
「これからする質問に偽りなく答えてね?」
「お、おーけー・・・」
焦ったように両手を挙げて足を戻したジェームズに、はふぅっと息を吐き出し椅子に座った
「どうしてここにいるの?」
「授業中にちょっとした悪戯をしたんだけどね、その悪戯の罰として使われなくなった部屋の掃除をしてて、暖炉の中で転んだらここにいたんだ」
「名前は、さっき聞いたから良いとして。年齢と職業は?」
「え?あー・・・っと、16歳で今は一人前の魔法使いになる為にホグワーツに通ってる学生さ!寮はグリフィンドールで趣味は ――――― 」
「あぁもういいよ」
止めなければ永遠と続きそうな自己紹介には片手を振って止めさせ、足を組んでジッとジェームズを見た
まだ色々と言いたかったんだろう少し不満気なジェームズが嘘を吐いているようには見えない
だとしたら、これはまた面倒な事になったとは溜め息ひとつ
「戻る方法、またはどうしてこうなったか説明できる?」
「いやそれが僕にもさっぱり。もしかしたら、暖炉自体に何か魔法がかけられていたのかもしれないけど、僕のレベルじゃわからないよ」
困った、それがの感想だった
額に手をあてて軽く頭を振って、きっとまだ状況がわかってないだろうジェームズを見る
「遠まわしに言うのは好きじゃないからハッキリ言うけど」
「なんだい?」
「魔法なんてものは御伽話の世界の話であって、実際に使える人なんていないよ」
「・・・あぁ、もしかして君はマグルかい?そうなるとまずい事になったなぁ」
「マグル?」
「魔法使いの存在を知らない、普通の人間の事だよ。僕達はマグルにバレないように生活しているからね」
が疑うような目でジェームズを見るが、ジェームズも嘘は吐いていない為に視線をそらす事はなかった
は立ち上がり事の発端となっている暖炉に近づき膝を折って中を覘き込んだ
しかしいつもと同じ、数年前から使われていない暖炉内はジェームズが這いずった所の埃が多少なくなっているだけで変わりはない
「・・・って、なんで片足しか靴履いてないの?」
「あれ?転んだ時に脱げたのかな。うはは!今まで気づかなかったよ!」
うはは!と変わった笑いを漏らすジェームズに半ば呆れつつ椅子へと戻った
「第五惑星クラウン、LV-203、エリア56」
「へ?」
「それがここの大まかな住所だよ。聞いた事ある?」
「えーっと・・・?」
「地球から約150光年離れた太陽系とはまた違う・・・って言ってもわかんないか。とにかく、地球じゃないのね、ここは」
「・・・・はい!?」
今まで生きてきた中で数え切れないくらい驚く事はあったけれど
16年生きてきた中で最大級の驚きをまさか隠せるわけも、冗談で返す事も出来るわけがなく
ジェームズはそれから約半日、目を見開き口をぽかんと開けたまま過ごす事になった