全ては偶然だった
けれどそれは、俺にとっての必然でもあった
その日ジェネシスは、任務帰りに汚れた身体を洗いたいと少し遠回りを承知で小さな村へと立ち寄った
出身地よりも遙かに小さなその村だったがひとつだけあった宿は勿論すぐに部屋を取る事が出来た
愛刀を壁に掛け、服を脱ぎシャワーを浴び、汚れを落としスッキリした頃だった
こんこん
小さな扉を叩く音
なんだ?と声を掛け扉を開ければ、随分と視線を下げなければ視界に収まらないだろう小さな少女
もう一度用件を問えば少女は両手に持った大きなカゴを少しばかり持ちあげた
「・・・何か用か?」
少女の言わんとする事がわからずジェネシスは扉に片手を添えたまま静かに見下ろす
何も言わない少女はただジッとジェネシスを見上げ、そして視線を泳がした後にゆっくりとカゴを床へと下ろし
自分を見下ろすジェネシスをもう一度見上げ部屋の中の椅子、その背凭れに掛けられた汚れてしまっている服を指差した
「俺の服・・・あぁ、洗濯をすると言いたいのか?」
そう問えば少女はキョトン、とした後に小さく頷いて見せる
確かに任務帰りで身体はサッパリしたがまた汚れた服を着てかなければならない
どうせ今日は一泊するのだから問題はないか、とジェネシスは脱いだ服を全て掴み少女の持つカゴへと入れる
「まだ何かあるのか?」
重いだろうカゴを何とか両手で持ち上げ、それでもまだ自分を見上げる小さな少女
さっさと休んでしまいたいジェネシスは気だるげに髪を掻き上げれば、少女は小さく首を傾げた後、ペコリと頭を下げた
トボトボ、ヨロヨロ、明らかに覚束無い足取りで薄暗く木がしなる廊下を歩く背中を見送り扉を閉める
「口がきけない、のか」
結局ひとことも口を開かなかった少女にひとり納得して、ジェネシスは重い身体をベッドに沈めた
――― のだが、意識を手離す寸前にまた小さな、控えめなノックが部屋に響いた
「今度はなんだ?」
扉を開け問えば、予想通りに自分を見上げる少女は短い腕を精一杯伸ばし何かを持ち上げた
訝しげな顔でそれを受け取り見れば、綺麗に洗い畳まれた服だった
どういう意味なのかわからず、口がきけないのだと自己完結させたばかりのジェネシスは少女を見下ろす
「これを?」
ジェネシスは気付いているのかいないのか、ほんの少し柔らかくなった声で問う
自分を精一杯見上げる少女は、少し考えるように視線を泳がせた後、ジェネシスが今着ている薄手の服を指差した
ミッドガルにあるホテルとは違いガウンやバスローブなど置いてあるわけがない
気持ち悪いと思いつつも、なるべく汚れていない、中に着ていた服を今現在ジェネシスは着ている
「これも洗うと言うのか?その間、これを代わりに?」
意図を読み取りそう問えば、少女は伝わった事に安心したのか、ホッとしたように頷いた
そこまでやるのかと思いながらもジェネシスにとっては願ってもない事だ
その場で少女の目も気にせず服を脱ぎ捨て、綺麗に畳まれた服に袖を通す
サイズはほんの少し大きいそれに違和感を感じつつも、少女はジェネシスの脱ぎ捨てた服をせっせと拾い集め、また小さく頭を下げ廊下を駆けていく
お世辞にも綺麗だとは言えない宿
こんな小さな村なのだから客もそう来ないだろうから仕方ない
けれど、その割にはシーツや枕カバー、寝具に関してはまるで洗いたてのような石鹸の匂いと太陽の匂いがした
「・・・悪くないな」
久し振りだと、その匂いに包まれるようにそっと目を閉じた
自分で思っていた以上に身体は疲れていたのか
陽だまりの中にいるかのような暖かさに、ジェネシスはあっという間に意識を手離した
(心地よい温度を)
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(夢書きへの100のお題:11.心地よい温度を)