懐かれた、そう思った時にはサイクルの中にキミはいた
輝く人懐っこい笑顔と、憎めない甘えん坊で、だけど頼りになる性格で、いつの間にか当たり前になってたキミ
賑やかに笑うサイクルの中でふと立ち尽くす自分がいる
何度も自問自答を繰り返し、弾き出された答えを拒絶する自分に、あたしはいつからか甘えてた



「なんでこういう時に限ってあのふたりはいないんだ・・・」



薄暗い廊下に佇む影がふたつ
赤いランプが点いたまま、何の動きも見せないその先にある世界



「・・・ねえ、なんで・・・?」



感情の消えた声が、薄暗く不気味なほど静かな廊下に響いた
アンジールは声のした方を、自分の真正面に膝を抱くようにして座り込むを見つめすぐに顔を逸らした

   ― なにをやってるんだザックス、早く目を覚ませ

口に出来ない思い、願いを心の中で強くこの先の向こうにいるだろうザックスに向ける
これ以上長引くようならマズイ
それだけは回避しなくてはならないとわかっていても、現実はそう簡単には進まない



「・・・ねえ、・・・な、んで・・・?」



膝に顔を埋めたまま、感情も、色も、全てを失った声だけが響く
慰めの言葉も、元気付ける言葉も、浮かんでは消えていき、開きかけた口は静かに役目を果たさぬまま



「ねえ、なんで?なんでザックス、あんなに真っ赤だったの?ねえ、なんで・・・アンジール・・・」



顔を上げたは、表情がなく無機質なままそう静かに問い掛けた
ヒステリックに泣き叫ぶのなら力ずくで押え込んでしまえばいい
取り乱し暴れるのなら薬で眠らせてしまえばいい

   ― 、おまえはまだ・・・

静かに、ただ言葉を紡ぐに向ける言葉が見つからない
何を言えばいいのか、どうしたらいいのか、考えたって答えは見つからない
クラス1stだと言っても何も出来やしない、アンジールは己を嘲笑うかのように肩を揺らす



「・・・、信じるんだ」
「信じる?なにを?ねえ、何を?」
「ザックスは大丈夫だ。すぐに目を覚まして、いつものように笑うさ」
「なんで?アンジール、どうしてわかるの?」
「俺はあいつの仲間、だからな。・・・おまえも、だろ?」



距離はそのままに、紡ぐ言葉は優しく小さく
仲間という言葉にが初めて反応を示すかのように、膝を抱く腕の力を込めた



「・・・ザックスの、手・・・冷たかった、んだ・・・」

「なに、やってるの?って言ってもね、いつもみたいに、笑ってくれなかった、んだよ・・・」
、おまえはザックスを信じられないのか?」
「・・・っ違う!!そんなんじゃ、ない・・・!」



否定しても、違うと何度も言い聞かせても、温もりを失ったあの手をは知っている
閉じた目がもう二度と開かないとわかった時の、全身の力が抜け、頭が真っ白になるあの感覚も

大丈夫だと言い聞かせ、他の事を考えようとしても
頭に浮かぶのは、ザックスの笑顔じゃない
身体が思い出すのは、ザックスの温もりじゃない



「・・・あたし、が・・・」
!!」



続いて出てくるだろう言葉を予想してアンジールは叫ぶ事で遮った
その先は口にしてはいけない
わかってる、おまえが何を言いたいのかわかっている、だが口にはするな



「・・・アン、ジール・・・どう、しよ・・・あ、たし・・・っ」
「大丈夫だ、。あいつはバカで元気だけがウリの男だ。心配する事はないさ」
「・・・で、も・・・っ」



気を抜いていたわけじゃない
いつも通り、自分の信念に従って、犠牲を少しでも減らす為にあたしは動いた

   ― 大丈夫だって!俺も2ndなんだからさ、心配いらねーよ!

危険の中で、キミが任せて欲しいと言ったあの場所は危険だとどこかで思ってた
だけどあまりにキミが綺麗に笑うから、自信に溢れていたから、だけどそんなの全部あたしの言い訳だ

いつもだったら任せない
少しでも危険があればあたしがそこに向かう
それなのにあたしはあの時、少し考えただけで、大丈夫だと判断して、キミに任せた

何度も何度も自問自答を繰り返して、駄目だと導かれた答えに気付きながらそれに気付かないふりをした
それで良いんだと甘えてた
そんな事ないのに、それじゃ駄目なのに、あたしは結局何も変わってない



「・・・ザックス・・・っお願い、いなく・・・っならないで・・・!!」



インカム越しに聞こえるキミの、不安定な声色と荒い息
それでも大丈夫だと、信じて欲しいと、あたしはどこまでキミに甘えていたんだろう

   ― あの場では、あの時は、あたしはキミの命を背負っていたのに、その事実にすら甘えてた

真っ赤になったキミ
小さく上下する肩があたしの呼吸を止めた

(冷え切った指先)

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(夢書きへの100のお題:53.冷え切った指先)