神羅ビル内にいつの間にか広まり、そしていつの間にか運気アップだとか言われるようになってしまった噂の彼女
実はただ単に気まぐれで日によって外見がガラリと変わるだけだった
ソルジャーだと言うのにタークスのような全身真っ黒なスーツを着たり、俺は見た事ないけど時にはドレスを着て任務にも行っちゃうらしい



「アンジール、アンジール、アンジール!!」
「・・・なんだ騒々しい、会いたいのなら会いに行けばいいだろう」
「クラス1stのフロアに俺が入れないの知ってるだろ!」
「あぁ、そうだったな」



ふっと口元だけに笑みを浮かべるアンジールにムッとして、俺はバーチャルの世界にある壁を思いっきり蹴った
女ソルジャーってだけでもすげぇってのにの地位はクラス1stって言うんだから驚き通り越して嘘だろ?って思った
俺が目指す、憧れのセフィロスの旦那と同じ地位を持つ彼女

   ― あんな細っこい身体で大剣とか、振り回すんかねぇ・・・

噂ばかりで実際に会ったのはあの時だけ
それも最後の最後まで俺はちっとも気づかなかったし
あの日以来、も言ってた通りに長い任務なのか帰ってきた形跡なし
アンジールが言うんだから嘘じゃない



「なぁ、アンジール」
「なんだ?」
ってさ、クラス1stなんだろ?だけど俺、の事なんて噂が出回るまで知らなかったんだけど」



行き成り1stに位置づけられたとしても、その前の時代は必ずある筈だ
いくら地味にしてたって女がいればこの俺が気付かない筈がない



「知らないのも無理はない」
「どういう事だよ」
は3rdから2ヶ月で2nd、そこからは半年で1stに昇格しているが・・・1stまでは全て偽名、そして男として周りには認識されていた筈だ」
「はぁ!?いくら七変化だっつっても、女が男として?無理だろ、それ」
「無理?今のおまえが、無理じゃなかったという証拠だろう?」
「な、そりゃそう、だけど・・・」



現におまえは、男としてのあいつと共に任務に就いた事もある筈だ
そんな事をあっさりと口にしたアンジールは、後方から向かってきたモンスターを振り向きもせず一撃で消し去った



「そんなにが気になるか?」
「気になるっつーか・・・、あんなちっこいのに1stなんだろ?それにかっわいいし!」
「可愛い?・・・おまえの目にはそのように映るのか・・・。まあ、おまえじゃもう一度会う事すら難しいと思うがな」
「むっ、だったら協力してくれたっていいだろ!お前なら、1stのフロアに入れるんだからさ!」
「会いたいと願うなら、自分の力でなんとかするんだな」
「ちぇ!ケチだなぁ、アンジール!」



独特の機械音が耳を掠め世界が崩れていく
毎回この時に感じる気持ち悪さに、うぇっと顔を歪めてヘッドを取ればどこに行ったのかアンジールの姿はない
さっさと自室に戻ったのか、なんとも相変わらず任務外はマイペースだと重い腕を回す



「おんや、張り切ってるね、仔犬くん」
「へ?」



ぷしゅっとドアの開く音がしたかと思えば、耳に届いた忘れもしないまだ記憶に新しい声
ポケッとしたまま振り返ればそこにはついさっきまで話題に上っていた彼女
任務帰りなのか、七変化と言われるはあの日会った時の黒スーツだった
1stには専用のトレーニングルームがあるのに、わざわざ俺に会いに来てくれたのかと舞い上がる俺



!」
「アンジール、いる?」
「って、アンジールかよ・・・!」
「え?」



舞い上がった俺がバカだったと、そりゃ確かに面識程度しかない俺を探しにくるわけがない
がっくりと肩を落とした俺には音もなく近付くと、そのまま伸ばされた腕が俺の腕に触れた



「え、ちょ、?」
「うんうん、鍛えてるね」
「へ?」



俺の二の腕をペタペタと触りながらそう呟いてそのまま俺を見上げる
俺の肩よりも下にある顔は思いのほか近かった



「うーん、綺麗な顔してるのになぁ」
「俺の顔?」
「うん、キミの顔。綺麗だよね、おっさん顔のアンジールとは大違い」
「おっさん顔・・・ぶっ!それ、アンジールが聞いたら怒るぞ?」
「あ、やっぱり?」



アンジールには内緒ね?
なんて人差し指を口にあてて笑うその顔に思わずドキッとした
気が付けば俺の半分もない細いの腕に触れていた



「うん?」
「細い、よな・・・」
「あはは、そりゃ女ですから。鍛えてもね、さすがにアンジールやキミのようにはなれないよ」



それになったらなったで、怖いでしょ?
クスクスと笑うは大人っぽいけど、さっきの内緒だと言った時の顔は可愛くて子供っぽかった
表情までころころと変わるのかと腕から手を離す
何となくそのままトレーニングルームを出て、お互いに自室に戻る為にエレベーターを目指した



「アンジールに、何か用だった?」
「ただいまをね、言おうと思ったの」
「わざわざ?アンジールに?」



それってもしかして、付き合ったりしちゃってる?
思いのほか俺の顔が引きつったのか、ワンテンポ遅れてがケタケタと笑い出す
そんなわけないと俺の腕をパシパシと叩きながら何やらツボにはまったらしい

   ― あ、この顔・・・好き、かも・・・

大人っぽくも、子供っぽくも、どっちにも取れるような
多分今までの笑みだって作ってたわけじゃないんだろうけど、なんていうか、素な感じの笑顔



「あたしにとって神羅は、っていうかあそこは家なのよ。だから、帰ってきてアンジール達がいるなら“おかえり”と“ただいま”必ずなの」
「おかえりと、ただいま?」
「そうだよー?ここから任務に出て、ここに帰って来るわけでしょ?だから、ね」



少しだけ首を傾げて、何故か頑張って腕を伸ばして俺の額をつんっと突いた
わかるような、わからないような、ここに来る前は確かに当たり前だったかもしれない挨拶の言葉
いつの間にかしなくなった
いや、する相手なんていないんだって思ってた



「・・・なんか、いいよな、それ」
「ん?」
「なんつーかさ、いってらっしゃいとか言われると帰って来る気になれるじゃん?」
「あ、だよね?無意識に帰らなきゃって思うようになるしね、挨拶は大事だから」



エレベーターの前で立ち止まって、お互いに別々のボタンを押す
は1st専用のフロアに直行のエレベータで、俺は普通のエレベーター
すぐにお決まりの音を立ててエレベータのドアが開いた



「あ、アンジール!」
「なんだよ、どこいってたんだ?」



ひょっこりエレベーターの中から出て来たのはアンジールで、揃って声を上げた俺達を訝しげに見た



「珍しい組み合わせだな」
「アンジールが向こうのトレーニングルームにいるって聞いてね、行ったらいなくて仔犬くんと少し話してたんだ」
がそろそろ帰って来るだろうとフロアに戻ったが、入れ違いになったようだな」
「あら、そうだったんだ?」



見事な入れ違いだね、なんて笑いながらは慣れたようにアンジールの胸をトンッと叩く
何て事ないやり取り
だけど何故か、俺だけが取り残されてるような、蚊帳の外って感じがした



「ザックス、明日は寝坊するなよ」
「わかってらぁ!」
「ふふ、じゃあね、仔犬くん」
「あ、うん。・・・っていうか、仔犬くんってのやめろよな!」



エレベーターに乗り込む背中にそう叫べば、振り返ってケタケタ笑う小さな1stさん
俺はどうしたって乗れない1st専用フロア直行のエレベーター
無理にでも乗り込めば、ふたりの事だから笑って1st専用フロアに入れてくれるだろう
だけどそれはすげぇ情けない気がした



、おかえり」
「うん!ただいま、アンジール」



エレベーターのドアが閉まる直前に聞こえた会話
なんか、すげぇ、その場にぽつんと残った俺が惨めに思えた

(君までは遠い)

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(夢書きへの100のお題:10.君までは遠い)