少し前まであんなに噂になっていたのに、いつの間にか七変化の頻度が少なくなったからの注目は減っていた
それでも女ソルジャー、しかもクラス1stともなれば嫌でもついてくる他人の目
だからなのか、それとも元々人気のある場所が嫌いなのか、は1stフロアから出る事は殆どなかった
「またお前はここで寝たのか?」
「・・・んぁ、おはよー・・・セフィロス。・・・あ、おかえり?」
エレベーターを下りてすぐに円状に広がるフロアに置かれたソファーに、まさに寝起きといったボーッとした顔で座りこんでいた
掛けられた声にゆっくりとした動きで振り返り、無意識に腕を伸ばせばセフィロスは呆れたように軽いハグ
「あぁ、ただいま」
英雄と呼ばれ他のソルジャーからも一線置かれている、近寄りがたい彼もこの時ばかりは優しげな笑みを浮かべる
展望台のように作られているそのフロアには、昇りはじめた朝日が射し込みグラスの氷が小さく音を立てる
「んんっ・・・ジェネシス、まだ?」
「そうらしい。、眠いのなら部屋に戻ったらどうだ?」
グラスの中に残った氷を見る限り、眠っていたといってもほんの少しの間だろうとセフィロスがソファーの背に軽く腰掛けた
いつもの事、と言ってしまえばそれまでだが何度言ってもは時折このフロアに置かれたソファーで眠る事があった
それを見かける度に、熟睡している場合は部屋に運ぶのだが今日は寝ぼけていると言っても起きている
けれど、ワンテンポ、いやそれ以上に遅れて返ってくる返事は実に頼りない
「」
「・・・うぁい・・・聞こえてる、聞こえてる・・・」
「任務が入っているのか?」
「・・・あー、うん・・・そう、そうなんだ・・・任務が、入ってる・・・・」
何時だ?と聞けば、随分と長い沈黙の後にポツリと、30分後?と曖昧な返事が返ってくる
任務帰りで寝たのではなく、これから任務なのかと、の久し振りに見る戦闘服にセフィロスはひとり納得し腰を上げた
自分は任務帰りだと言うのに構わず小さなカウンターに置かれているそれで濃い目の珈琲を淹れる
豆のいい香りがフロアに漂い、自然との目はぱっちりとしはじめた
「ほら、飲んで目を覚ませ」
「・・・ありがと、セフィロス」
受け取って火傷しないように軽く息を吹きかけ少しだけ口にすれば、ほろ苦い珈琲の味と香りが口に広がる
ぽすっと隣に座ったセフィロスに何となく寄り掛かればふわりと血のにおいがした
普通の女ならば顔を歪めるにおいも、ソルジャーであるにとっては身近なにおい
「今日の任務ね、ほらあの子、アンジールが面倒見てるっていう仔犬くんと一緒なんだぁ」
「仔犬?・・・あぁ、仔犬のザックスか」
「そうそう、仔犬くん」
「アンジールも一緒か?」
「んーん、アンジールは単独で北の方の・・・なんて言ったっけかな、どっかの辺境の地になんとかの調査だって言ってたよ」
北の方角、辺境の地、調査、曖昧な表現ばかりの情報にセフィロスはふっと苦笑い
興味のない事に関しての物覚えの悪さは相変わらずだ
「・・・、まだアレは飲んでるのか?」
少しだけ、ほんの少しだけ言葉を選んだその声にはふっと顔を上げる
遠慮がちにかち合った視線に小さく笑っては首を横に振った
もう大丈夫っぽいよ、なんて頼りない言葉と共に
「ありがとセフィロス、目も覚めたし行って来る」
飲み干したカップを置いて、ソファーから腰を上げる
「セフィロスは、またすぐに任務?」
「いや、まだ何も言われてはいない」
「そっか。休めるだけ休んでね?じゃあ、行ってきます!」
「あぁ」
どうしてかわからないが、いってらっしゃいという言葉を絶対に口にしないセフィロスに口元だけを緩ませた
そう言えばアンジールもその言葉を口にした事がないと、思い出しながら相棒でもある漆黒のレイピアを腰にさす
エレベーターに乗り込みロビーへのボタンを押せば、お決まりの音を立ててドアが閉じる
「さて、仔犬くんの実力はどんなもんかな」
本来はアンジールが同行する筈だったこの任務
しかし、アンジールが今現在向かっているだろう任務には適正ではないと判断され代わりにと回って来たのが今回のこの任務だった
1stになってから初めて見知らぬ、実力を知らぬ者と組む任務
少しの期待と、少しの不安、そしてほんの少しの気だるさを感じつつ止まったエレベータを下りた
「!こっちこっち!!」
「おわ、朝から元気だね。おはよ」
おはよう!とこれまた元気に駆け寄ってくるザックスに、は半歩後退りながら周りを見た
そこには既に同行予定の一般兵の姿がある
「そりゃ元気にもなるって!まったアンジールかと思ったら、今回は俺とと、後は一般兵だけだろ?」
「って言っても、既に待機してる隊があるからね?」
「でもさ、でもさ、なんつーの?俺との初任務って事で、テンションも上がるでしょ!」
「あはは、噂通りだね、ホント落ち着きがない仔犬みたい」
「あーっ!それはなし!俺の名前はザックス、ザーックス!おーけー?」
「ぶっ!おーけー、おーけー、わかったよ、仔犬くん」
そうそう、それで・・・って、わかってねぇじゃんかよ!
激しいノリツッコミにはケタケタ笑い、それを見たザックスも肩を竦め口元を緩ませた
「さて、じゃあ行こうか」
表情は笑顔だがどこまでも通るような凛とした声
一般兵がビシッと背筋を伸ばし車に乗り込んでいく
それに続くように、ザックスとも後部席へと乗り込んだ
+++
早朝だった筈が、目的地に付く頃にはどっぷりと日が暮れ空には半月がぼんやりと浮かんでいた
車を置きそこからまた30分ほど歩いた地点で、達は立ち止まり木々の間に身を隠す
「ソルジャークラス1stのです。今回は指揮を取らせて貰うんで、先に待機してた方々は改めてよろしくお願いしますね」
インカム越しに別ポイントで待機している者達への声掛け
わざわざこんな事をする者は少なく、ザックスもの隣で驚いたように目を丸くした
「今回の作戦は予定通りです。ランク的にはそれほど高いとは言えませんが、戦争に加担しているだけあって何が出てくるかわかりません」
の視線は真っ直ぐにターゲットである、煌々と明かりの点いた屋敷へと向けられている
「任務遂行、任務達成、それが最大の目標です」
たとえそれに仲間の死があろうとも真っ先に優先すべき事
それは誰もがわかっている事だったが、はふっと表情を緩ませるとずっと視線を感じていたザックスを振り返った
「ですが、今回のみそれは忘れてくださいね」
は?と声に出てしまったのはザックスだけではなかった筈だ
別のポイントで待機していた者達も、顔を見合わせ訝しげに眉を寄せた
「今回の任務の最大の目標は死者ゼロ、ですのでね、死者が出た隊にはお仕置きを受けてもらいます」
またも、えぇ!?と叫んだザックスには笑を堪えたように軽くザックスの膝を叩いた
「どうしても仲間を守れない場合は叫んで下さい。ソルジャークラス2ndのザックスさんがすっ飛んで行って助けてくれますから」
「ちょっ、!?」
「と言う訳で、気楽に行きましょう?ひとりじゃない、助け合う仲間がいる、それを忘れないで下さい」
わたわたと慌てるザックスを横目に、は通信を一旦切ると立ち上がり自分の隊のメンバーの顔をゆっくりと見る
そして緊張気味の一般兵達に安心させるような笑みを浮かべた
「大丈夫、キミ達はあたしが守るから」
たったそれだけの言葉に込められた意味
の隊に選ばれた3名の一般兵は顔を上げを真っ直ぐに見る
「だから、キミ達もあたしを守ってね」
これにはさすがに、一般兵達も目を丸くした
どうして自分達たかが一般兵がクラス1stのを守るのか疑問符が飛ぶ
しかしそれも一瞬
ひとりじゃない、助け合う仲間がいる、それを忘れないで下さい
先ほどインカムで全ての人間に伝えたの言葉
一般兵だから、ソルジャーだから、そんな事は関係なく、共に戦う仲間に向けた言葉
ソルジャーになれずに一般兵に留まる者も多い
捨て駒にさえ使われる事もある一般兵に向けられたその言葉は、温かく、そしてあまりに大きかった
「さてさて、そろそろ時間かな」
クラス1stという地位は何も強さだけじゃない
上に立ち人を動かす力量、人を惹き付け引っ張っていくだけのカリスマ性
ふと一般兵を見ればあれほど緊張していたのが嘘のように、今は落ち着き時が来るのを待っている
― ・・・さすが、っつーか・・・なんだよ、遠すぎだっての・・・
たったひとつの差、それだけじゃない
数字にしたらそれだけだが、その間には大きな差があると見せ付けられた
インカム越しに指示を出すに答える別部隊の声も、心なしか落ち着き余裕さえ見える
力の差だけじゃない
そこには、目に見えない多くの自分との違いがそこにあった
「・・・」
「ん?」
小さく名前を呼べば、はインカムを押え振り向く
「・・・守るから、さ」
「うん」
「・・・守って、くれよな」
「当然!だって、仲間でしょ?」
男としてのプライドなんて、ちっぽけな程には大きかった
素直に口に出来たのはの持つ不思議な力
(悲しいくらい魅せられた)
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(夢書きへの100のお題:60.悲しいくらい魅せられた)
あれ、おかしいってば・・・あっさり短めで進めたいのに、何かダラダラと長い・・・!