違和感を覚えたのは初めて顔を合わしたあの瞬間
説明出来るほどハッキリしたものではなかったけど、確かに向けられた眼差しに違和感を感じた
その答えは未だに見つからない
ただわかるのは、あたしじゃない誰かを、あたしを通して見てる、それだけ



「あぁー!!ちょっ、なにしてんスか!!」
「俺にはちと甘すぎじゃな」
「仁王先輩まで!!これは俺のっスよ!!」
「元々は俺のだろぃ」
「あんたがふっ飛ばしたんでしょ!!」



部室にタオルを置きに来れば、ギャイギャイとじゃれ合う図体のデカイ犬が三匹
机の上に散らばっているのは見間違いじゃなければ、丸井に吹き飛ばされたマフィンだ
昼間では切原を敵視しまくってた丸井も今じゃ元通り
ホントにこの男は気分屋だと思う



「あ、先輩!ひどいんスよ!この人達!!」
「赤也、ストップ」
「ぐへっ!!ちょ、ぐ、ぐるし!!」
「丸井!切原死ぬって!!」



こっちに駆け寄ろうとした切原のジャージの後ろ襟を、思いっきり引っ張る丸井に慌てて声を掛ける
パッと手を離せば切原はゴホゴホと本気で咽込んだ
相当苦しかったのか目尻に溜まったそれが零れ落ちる



「なにすんだよあんた、潰すよ!?」
「お前が悪い」
「はぁ!?俺の何が悪いんスか!?」
「赤也、気付いてねぇの?」
「だから何がっスか!!」
「今の流れじゃと、赤也は妹ちゃんに抱き付いとったのぅ」



仁王の言葉にふっと切原が動きを止めて、少し考えるように視線を彷徨わせた
確かにその通りだと思ったのかハッとしたように丸井を見る



「・・・いやいや、だからって死んだらどうするんスか!!」
「線香上げて涙ぽろり、してやんよ」
「いらないっスよそんな安い涙!」



何でもないように丸井と言葉を交わす切原も、たぶん同じような気分屋なんだろうと納得
取り合えず抱えたタオルを棚にしまいこんで行けばふっと隣に人の気配
横目で見上げればジッと見下ろす瞳



「なに?」
「妹ちゃんは丸井と赤也、どっちが好み?」
「・・・は?」



何を聞くんだと最後のタオルを押し込んで身体を向ける
ぴたりと今まで騒いでいた二人が動きを止めてこっちを見た



「どっち?って言われても・・・」



切原のポカンとした顔
丸井のジッと見つめる視線
まるで正反対の二人から視線を外して、謎の質問を投げかけた仁王を見上げる



「・・・究極の二択?」
「俺も入れてよかよ?」
「変わんないしね、仁王が入っても」
「ククッ、そりゃ残念」



そもそも切原も仁王もベクトルはでしょ?と口には出さず訴えれば、仁王は何が面白いのか口端を上げた
そろそろ部活も本格的に始まる時刻
仁王が一番初めにスッとラケットに手を伸ばす



「今日って副ブチョ、いないんスよね?」
「真田は幸村の見舞いじゃ」
「って事は、誰が仕切るんスか?柳先輩とか?」
「メニューはが預かってるきに、が指示出すんじゃなか?」
「マジ!?っしゃ!俺も早く行こっと!」



断然やる気が出たのか、切原もズレたままだったジャージを直してラケットを持つ
その中で一人不満げにぶすっとした顔の丸井
あぁこりゃ拗ねてると、飛び出していく切原の横を通り過ぎて近づいた



「先に行ってるぜよ」



振り返った仁王の顔が嫌味に笑みを浮かべててうんざり
どこまで知ってるのか読めない男だと思う
せっかく機嫌が直ったのにと思いながら、ベンチに座って不貞腐れる丸井の隣に腰を下ろした



「マフィン美味しかった?」
「・・・もっと甘い方がいい」
「げっ、かなり甘くしたのにもっと?・・・太るよ?」
「・・・
「ん?」



囁くように名前を呼んだかと思えば、昼休みの苦しいくらいの抱擁が嘘みたいに弱々しく
抱き締めるというよりも抱き付いてくる丸井
最近の丸井はひどく不安定だと思う
暫く安定していたのに、何か原因があるのかと心配になるけど、その質問を投げかける事は出来ない



「明日、もっと甘いマフィン、作ってくるね」



丸井に恋愛感情があるかと聞かれたら、たぶん答えはノーだと思う
ハッキリ言えないけど、たぶんそう
だけど放っておけないと思うのは友達だからなのか、それともホントは友達以上に想ってるのか
考えてもわからない自分の気持ち



「・・・今日、んち、行く」



小さく呟いた言葉に、真っ赤な髪を優しく梳きながら頷いた
無邪気に笑っているかと思えば、次の瞬間には射殺さんばかりのキツイ眼差しを向ける
元気に飛び回ってるかと思えば、今にも倒れそうな顔で凭れ掛かる
今まで気にしなかった小さな事に敏感に反応する
ホント不安定だと、その理由さえわからないあたしには、ただ抱き締める事しか出来ない

(不安定BOY)

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誰が病んでるのかもうハッキリしましたね
うまく表現できないもどかしさに押しつぶされそう・・・!!