「クラウド?こんな時間に、どうかしたの?」
「・・・何でもない、夢見が悪かっただけだ」



そっか、私もお水、飲もうかな
ぎこちない笑みはきっとクラウドにも気付かれたと思う
人付き合いが苦手なくせに、いつだってクラウドは突っ走って私を置いていく
あの時もそうだったね



「・・・ねえ、クラウド」



私の知らない、あの日からのクラウド
何があったのか勿論詳しくなんて知らない
聞いてもクラウド話してくれないから



「・・・夢見が悪かったって、怖い夢、見たの?」



昔はあんなに一緒にいたのに、今では手を伸ばしても掴めない程遠くなっちゃったね
私の知らないクラウドにいつだって私は戸惑って
いつからか何かを思い出すような、胸が苦しくなるような、そんな顔をするようになったよね



「・・・別に、たいした夢じゃない」
「それくらい教えてくれても良いんじゃない?」



おどけたように言えば、クラウドはグラスを置いて雨がシトシトと降る窓の外を見る
その横顔が見た事ないくらいに切なくて、喉も渇いていないのに手にしたグラスを強く握り締めた



「・・・雨は好きじゃない」
「え?」
「俺は二度も、雨の中で大切な・・・大切なトモダチを、なくしたんだ」
「・・・っ」





+++





神羅ビルの一般兵宿舎フロア
そこは狭い部屋に二段ベッドで四人が生活して、風呂とトイレは共同
お世辞にもいい環境とは言えなかった
元々内気で周りと打ち解けるのが苦手だったから、よけいにその狭い空間が苦手だった

システムが壊れ、そのまま放置されたトレーニングルーム
これがソルジャーのフロアならすぐに直すだろうそこが、俺の唯一落ち着ける場所だった



「あぁー!いた、見つけた!・・・ザックス、いたよクラウド!!」
「どこどこ?・・・あぁ、クラウド!お前なぁ、こんな場所で何やってんだよ!探しただろ?」



いつからかその場所に俺以外の人間が増えた
いつだって笑顔で、ほんの少し強引で、俺の目指すソルジャーの二人



「お前ね、こんな場所に篭ってたらいい加減キノコ生えるぞキノコ!」
「キノコって、なんだよザックス・・・」



俺と同じ田舎の出
そんな共通点からいつの間にか仲良くなった、ソルジャー・クラス2ndのザックス
どんな時も笑顔で、はちゃめちゃで、だけど頼りになる、そんな男



「クラウドに生えるキノコなら美味しそうだよね。ほら、ザックスに生えるとしたら絶対笑いキノコとか、お笑い系だもん」
ちゃ〜ん?それはどういう意味か、なっ!」
「ぎゃ!いた、痛い痛い!髪の毛抜けるってば!」



仲良くなったザックスから、ちょーっと変態入ってるけどいい奴だから、と紹介されたタークスに所属する
変態、なんて女の子に言う言葉じゃないと初めは思った
だけど実際に仲良くなると、そう言っていたザックスの気持ちが凄くわかる
少し普通よりも飛んでる言動があるけど、俺の大切なトモダチ



「お前、昼飯まだだろ?」
「あ、うん。もうそんな時間だったんだ」
「そうだよー?だからね、ザックスの素敵なポケットマネーで豪華スペシャル弁当買ってきた!」



じゃじゃーん!と得意そうにが持ち上げて見せたのは、最近話題の名前の通り値段も中身も豪華な弁当
ザックスの奢りと言う事で、さすがソルジャーとザックスを見れば、そこには何故か財布を見て青褪めるザックスがいた



「・・・俺の、ポケットマネー・・・?」
「え?ザックス?」
「さて、食べよう。冷めない内に食べてしまおうクラウド!」
「へ!?」



冷たい床に座り込んで、俺の腕をぐいっと引っ張るに慌てて腰を下ろす
何でザックスが青褪めてるのかわからなくて見上げる
どうかしたのか?と声を掛ければ、ザックスは財布を床に投げ捨てた
それがまた情けなくへちゃっと音がして、まさか・・・と、俺はを見る



「やけに太っ腹だと思ったけどお前・・・っ自分の金じゃなくて俺の金かよ!!」



あぁ、やっぱり・・・
激怒するザックスとは正反対に、はキョトンとした顔



「財布忘れちゃってさ、ザックスのポケットから借りたの」
「借りたの。・・・じゃねぇよ!俺にひとことも言わず持ってったら、そりゃ盗んだって言うんだよ!」
「言ったよ?」
「はぁ?そんなの聞いてない!」
「うん、だって、心の中で言ったから」
「・・・〜っあのなぁ!!心の中で言った、それが通じたらこの世から窃盗なんて罪はなくなるわ!」
「ちょ、二人とも!それくらいにして・・・!」



ザックスとの喧嘩は日常茶飯事
喧嘩と言っても、いつだっては怒鳴るザックスを平然と交わして、最後は結局



「未来の英雄さんと一緒にご飯なんて、今だけだもん・・・」
「・・・、お前・・・!」



英雄になったら、ザックスは遠くなっちゃうでしょ?
そんなセリフと一緒にぽろりとの目から零れ落ちるそれ
俺よりも付き合いの長いザックスは何で見抜けないんだと、毎回呆れて俺はさっさと弁当の蓋を開けた



「そうか、そうだよな。でもな、俺は英雄になってもお前達のトモダチだ!」



毎回こうしてザックスの財布は軽くなる
知ってるんだぞ、俺
こうやってに流された後、金がなくて食堂のおばちゃんに必死な顔で頼み込んでるの知ってるんだからな
思った以上に豪華な弁当は味も当然美味しくて、だけどそれだけじゃない



「クラウド、ほら、あそこの傷見てみ」
「傷?・・・どこだよ、傷なんて・・・あ!ザックス!それは俺の肉だろ!」
「騙されるお前が悪い。ほらほら、これやるから、な?」
「・・・パセリと肉?どう考えたって不公平だ!」
「あ、ザックス。水とって」
「ん、ほら」
「ありがとー」
「おう。・・・って、こら!俺のプチトマト取るな!」
「これあげるから、大人しくしようね仔犬ちゃん」
「仔犬ゆうな!」
、髪に埃ついてる」
「え?どこどこ?」
「ここ」
「へ?・・・あぁ!!あたしの大好きな玉子焼き!!クラウド!」
「ははっ、騙されるほうが悪いんだよ、



弁当のおかずを取り合って、ぎゃあぎゃあ言いながらも、笑顔が消える事のない食事
ザックスがいて、がいて、だから美味しいんだ

早く俺もソルジャーになってザックスの隣に並びたい
タークスのと組んで任務にだっていきたい
焦る事なんてない、そう言う二人に背中を押されながら確実に一歩一歩、前に進んでた



久し振りにこの三人で任務に向かった、あの日までは、それが当たり前の毎日だった



ソルジャー・クラス2ndのザックス
タークスの
そして、一般兵が俺を含めて三人
任務内容は偵察だった
楽とは言えないけど、危険度は限りなく低かった

が前に言ってた
事前情報と現状は違うって、だから気を抜く事は出来ないって

確かにその通りだってそう思った
俺は普段からと、ザックスに連れられてこっそりソルジャーのトレーニングルームに忍び込んでは剣を交えてた
だからかな、ザックスの大声に素早く動けたのはと俺だけ

何が起こったのかわからないまま、ザックスの声との背中を頼りに走った
逃げる意味さえあの時の俺はわからなかった

暫く走って、も俺も息が切れ始めた頃やっと立ち止まった
少し遅れてザックスが合流して、気付けば俺以外の一般兵の姿はない



「本来ならザックスが戻るとこだけど、今回はあたしが戻るよ」
!?」
「・・・そう、だな。いけるか?」
「ちょ、ザックス!!」



本来タークスはこういった作戦の中では戦闘に加わる事はない
ザックスとのやり取りに俺が声を上げても、一刻を争う状況の中で俺の声は響かなかった



「なんて顔してるのクラウドー!大丈夫、あたしの実力は知ってるでしょ!」
「それは、そうだけど・・・だけど!」



あんな場所に一人戻る
の実力は知ってたし、ザックスが頷くって事は大丈夫なんだろうけど、俺の中の不安はどんどん大きくなった



「やだクラウド、寂しいならちゅーしよう!」
「ちょっ、!?」
「おま、何やってんだよ!」



俺の頬に軽く触れたそれに、バッと後退って片手で頬を押える俺を笑う
ザックスが何やってんだって呆れて肩を竦めた



「それじゃ、行ってくるね」
「気を付けろよ、
「りょーかい」
「・・・!」
「うん?なぁに、クラウド」
「・・・気を、つけて・・・絶対、戻ってこいよ!?」



その時は一瞬キョトンとした後、笑って、当たり前じゃん、って言って俺達から離れて行った
残された俺達はただ静かにの背中が見えなくなるまで見送った



「・・・クラウド、俺達も行くぞ」



その時の俺にはわからなかったけど、あの時ザックスが戻るわけには行かなかった
後から聞いて確かにそうだと思ったけど、ザックスが代わりに・・・なんて思わないけど
俺はどうしても、その事実を受け止める事が出来なかった





+++





「・・・二人もって、ザックス以外にも?」



静かに頷いたクラウドの横顔はまるで泣いているみたいだった
それ以上の事は聞けなくて、聞いちゃいけないんだって、入り込む事の出来ない思い出が寂しかった



「怖い夢かと聞いたよな」
「え、あ、うん・・・」
「怖い夢じゃない。俺にとって、楽しかった・・・大切な思い出のひとつだよ」



そう言ってクラウドは、儚くて、触れたら壊れてしまうような、そんな微笑を雨が降り続ける向こう側へと向けた
クラウドの抱えている闇は大きくて、触れる事も、聞く事も出来ない私にはどうしよもなくて
だから私は笑うんだよ
笑って欲しいから、また前みたいに笑って欲しいから、そう願う事しか出来ないから



「クラウド、もう寝ようよ。明日はマリンを乗せて、レノの所に行くんでしょ?」
「・・・あぁ、そうだな」

(ゆめをみたのね)

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こちらのタイトルは [涸れる空:ナカハラ様] からお借りしました。色々設定無視している所もありますがその辺はスルーで・・・)