火影岩の上に座って里を見下ろす
夕暮れ時の里は、ゆっくりと、けれど優しさを残す事なく闇に包まれるその様が良く見える
薄汚れたこの里を守る為に日々命を掛け任務だといって人を殺す
それのどこが正義だと、相手を殺す事でしか解決出来ない世の中など消えてしまえばいい
「狐炎、そろそろ時間だよ」
「・・・か」
「あんた何の為に暗部名があるか知ってる?おーい、この頭はちゃんと動いてますかー?」
グイグイと俺の頭を押さえ付け、馬鹿にするような口調で笑う
それを横目で見ながら手を払う事もせずにいれば、今度は訝しげな目が俺に向けられる
大人しい俺に対して気持ち悪いとか思ってるんだろう、口に出さなくてもその顔が物語る
若くして火影の地位を手にした四代目火影
誰もが四代目を慕い、その心に賛同し、歴代でも最も里からの信頼が厚いとされた男
その男が12年前に里を襲った九尾の狐を己の命と引き換えに、生まれたばかりの赤子に封じ込める事で里を救った
感動的な死は今でもこの里の人間の中に強く記憶に残っている
「なあ、」
「ん?」
「ぶっ壊しちまうか」
「は?火影岩を?」
「木の葉隠れの里」
「え、やだよ」
「・・・なんでだよ」
「だって、木の葉壊したら給料もらえないじゃん」
「お前の突っ込むべきはそこか、金なのか」
世の中お金でしょ、そんな事を言いながらはケタケタ笑う
俺達の間を繋ぐものは何もない
関係で言えば同じ暗部に所属する同僚
ただ、それだけ
「でも今更だね。なんで壊したいの?」
「・・・いらないだろ、こんな腐りきった里」
「相変わらず狐炎・・・、ナルトは木の葉が嫌いだね」
「お前もだろ?」
「ま、そーだけど」
四代目が己の命を代価に守った里
遠い昔の俺は、四代目の・・・・・・、俺の親父でもあるあの男の意志を継ぎたいと思った
あの男が命を代価にしてまでも守った里を、俺も同じように守りたいと思った
「でもさぁ、あれは凄かったよね」
「何がだ?」
「ほら、8年前くらいだっけ?男がポイッとここからナルトを投げ捨てた時!」
「・・・良く覚えてるな」
「だってあの時あたし、火影邸の屋根から見てたからね。うっわぁ、あれはひどいわぁって思って駆けつけたもん」
「は?駆けつけた?」
「うんうん、だけど真っ赤になってぶっ倒れてるから死んだのかと思ってさ、そのまま家に帰ったんだよね」
「・・・気配がしばらくしてたのはだったのか」
「気づいてた?さすがだね、九尾を身ごもったナルトくん」
「変な言い方するな。それじゃあ俺が九尾の子供を妊娠したみたいだろ」
「あははっ!でもある意味そうじゃん!」
あの男が守ったこの里は、俺にとって牢獄以外の何者でもなかった
誇りに思えと言い聞かす三代目の言葉を俺は少しずつ信じられなくなった
何がお前がいたからこそ四代目は里を守る事が出来た?
四代目だけじゃない、お前もこの里を守った一人だ?
― 俺はこの里にとって、四代目の命を奪った化け物に他ならない
どうしたら良いのかわからなかった
俺はあの男の守った里を同じように守りたくても、この里は俺を受け入れてはくれない
そんな里を守る事に意味なんてあるのか
― 俺が生きる、その意味さえもわからなくなった
だけど俺は今もこうして生きている
この世と俺を繋ぐのは、胸糞悪い九尾の見せる夢
それが俺を追い詰める
「この里を守って死んだ四代目火影、その代価を半分背負って生きるナルト、何て言うか凄い親子だわ」
「俺は背負いたくて背負ったわけじゃない」
「だけど誇りに思ってるんでしょ」
「誇り?ハッ、そんなもんねぇよ」
「良く言うよ。そんな四代目を誇りに思ってるから・・・、ゆらゆら揺れて、どうして良いかわかんないんでしょ」
「・・・、殺して欲しいならそう言えよ」
「おっと、怒るって事は図星でしょ。そろそろ認めなよ。そんなんじゃ、一生苦しいままだよ」
「・・・っうるさい!!」
頭に浮かぶ声との声が重なる
俺と距離を置いたはへらっと笑って俺をただ見つめる
「わかってるんでしょ、ナルトだって」
― ごめん、まだこんなちっちゃいのにさ、お前に全部背負わせちゃってごめんな
「うるさいって言ってるだろ!」
― だけど、だけどな・・・
「認めちゃいなよ。ここにはあたしだけだよ」
― 俺はお前の事・・・、ナルトの事だって愛してるんだからな
「うるさい!うるさい!!」
木霊する二つの声
聞きたくなくて耳を押さえても、そんな抵抗は無駄だと嘲笑うかのように声は聞こえる
「ナルトは」
― ナルト、お前はたとえ誰に何を言われても
「この里の誰が何て言おうとさ」
それ以上は言うな
これ以上俺を迷わせるな
俺はもう、俺を受け入れてくれる人間なんていらないんだ・・・!
「四代目と、父親と一緒に木の葉を守った、それだけは変わらないよ」
― 俺と一緒に代価を背負ってこの里を守ったんだ、ナルト
フラッシュバックするのは何度も何度も夢に見たあの笑み
小さな手を伸ばしても、どんなに伸ばしても、触れる前に消えてしまう笑み
「・・・ナルト、泣かないでよ」
いつの間にか縮んだ距離に、気づかなかった事への呆れが溜め息となって零れる
お前は俺との繋がりなんてない癖に、いつだって俺の確信をつく
知られたくない事、気づかれたくない事に気づいて、それをストレートに口にする
「・・・泣いてねぇよ、ばーか」
あんたは俺に立派な忍になる事を望んだのか?
あんたの意志を継いでこの里を守る、あんたと同じ位置に立つ、それを望んだのか?
なぁ、だったら何で死んだんだよ
俺はあんたのせいで化け物扱いだ
あんたはこうなる事がわかってたから、泣き喚く俺に何度も謝ったんだろう
だけど何度謝ったって変わらない、変えられない
あんたの意志を継ぎたいと思ってた筈なのに、俺は、何やってんだろうな・・・
「今からでも遅くないんじゃない?」
だから、なんでお前はわかるんだよ
俺まさか口に出してた?
そんなわけない、俺はお前と違って馬鹿じゃないからな
「あぁ!!もう時間過ぎてるじゃん!狐炎のせいだからね、行くよ!」
「・・・」
地を蹴ろうとしたの名を呼べば、うん?と振り返る
だけど振り向く前にその頭を掴んで、痛いと顔を歪めるの唇を掠めた
「・・・っぎゃぁ!!!セクハラ!!」
「なに処女みたいな事叫んでんだよ」
「そういう問題じゃないでしょ!っていうか、今の流れ的にキスはないって!」
「うるせぇ、行くぞ!」
「うっわ、ヤリ逃げ!!」
何だか人聞きの悪い事を叫ぶ声がしたが、優しい俺は聞かなかった事にして火影岩を蹴る
吹き抜ける風がいつもよりも気持ちよく感じる
過ぎていく里が、ほんの少しだけ、ミジンコくらいは、良い里かもしれないって思った
「こらナルト!!」
「ちょ、おま!それは叫ぶな!!」
(解き放たれるのを待ってた)
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夢書きへの100のお題:90.解き放たれるのを待ってた
スレナル設定であって、ナルトは九尾の意地悪で四代目の最後を良く夢に見る設定
四代目を誇りに思っているけど、その意志を継ぎたいけど、拒絶する里への寂しさや悲しみが裏目に出た、みたいな
そんな感じのスレナス設定でしたが、思ったよりも書いてて楽しかった!