少しずつ俺達にも心を開いてくれた
その度に、まるで般若のような顔をしたジェネシスが俺達の繋がりかけた糸を断ち切ったけどな

あいつがソルジャーになった時はな、それはもうセフィロスもジェネシスも大激怒だったよ
絶対にソルジャーにはならない、タークスにもならない、普通でいるという約束で俺達はあいつに・・・に全てを教えたのだからな

   ― なんで怒ってるの?おめでとうって、言ってくれないの?

そんな事をキョトンとした顔で、荒れ狂うブリザードにも気付かず問い掛けたは最強だ
約束を口にすればは目を丸くして言ったんだ

   ― あ、ごめん。すっかり忘れてた!

呆気に取られるあいつ等を見てたら、何だか馬鹿らしくなって俺は思わず吹き出した
も一緒になって笑ったが、おかげであいつ等の怒りの矛先は俺に向いたけどな

いつだってあいつは、は真っ直ぐで単純で、俺達にはないモノを持っていた
それはだけじゃなく俺達にまで伝染して、あの頃の俺達は、まぁ多少の問題はあったがそれなりに上手くやってたんだ





+++





「ザックス、覚悟がないのならこれ以上に近付くな」



これは俺の気持ちじゃない、の望みだ
いつになく真剣な顔でアンジールは、報告してくるとそう言い残し部屋を出て行った
自室のベッドに残されたのは包帯をグルグルに巻いた俺と、ベッドの端に猫みたいに小さくなって眠る



「・・・覚悟って、なんだよ・・・」



ばふっとベッドに沈めばの小さな身体が揺れて、起こしちまうかと慌てて身体を起こす
足元で小さく丸まっているは小さく身を捩ったけどそのままスヤスヤと聞こえるのは規則正しい深い息遣い
殴られて切れた口端がちくりと痛んだ

   ― あいつから笑顔を奪うのなら、俺はお前を殺す

初めて直接顔を見たソルジャー・クラス1stのジェネシス
整った顔はセフィロス並にイイ男で、だからか、俺を真っ直ぐに射抜くような視線はそれだけで背筋が凍った
きっとあの言葉は嘘じゃない
アンジールから聞かされた話から推測するに、にとってジェネシスは、ジェネシスにとっては、きっと誰にも入り込めない何かがる



「・・・俺の、せいかよ・・・」



アンジールの言葉が頭の中で繰り返し流れる
俺が悪いんじゃない、相手が悪いんだ、不測の事態だったんだと、言い聞かせても所詮それは言い訳だ

   ― あいつが剣を手に取った理由は、もう誰も傷つけない、そして弱い自分を守る為だ

後から知ったと、その理由を知ったアンジールは酷く後悔したと、自分を責めるように吐いた重い溜め息が痛かった
刺された左の脇腹がズクズクと鈍い痛み
知らなかった、その言葉で片づけられたらどんなに楽かっつーの



「・・・い、ってぇ・・・」



覚えてるのは、意外としぶとく数が多く、終わったと思った瞬間
背後からした鋭い殺気と脇腹に走った燃えるような熱さとその場にいた一般兵の叫び声
すぐに聞こえたのは、インカム越しに俺を呼ぶの声
なんて答えたのかは覚えてない
俺が次に見たのは、ソルジャー・クラス1stの3人が俺を取り囲む、思い出すと今でも震えが蘇るような、そんな地獄絵図



「・・・っん・・・」



ベッドに寝転んで、片腕で目元を隠していた俺の耳に小さなくぐもった声が届く
起きたのかと身体を起こせば、月明かりだけが頼りの先に、ゆっくりとが起き上がった



「・・・」
「・・・お、おう・・・」



俺をジッと見たまま何も言わない、身動きひとつしないに、口をついて出たのは心なしか震えた声
何情けない声出してんだとか思って右腕を上げ頭を掻いた



「・・・あ、う・・・」
?」
「・・・お、き・・・てる・・・」
「へ?」



あまりに小さいその声に、もう一度と聞き返せば、途端に俺の視界は物凄い勢いで反転した
脇腹の傷がこれ以上俺を傷つけるんじゃねぇ!と言いたげに声の出ない痛みが全身を駆け抜ける
声にならない痛みに悶絶しながら、思わず鼻先で揺れた髪にクシャミをした俺自身が、すげぇ情けないっつーか、呆れて吹き出した



「・・・よかった・・・っ!ほんと、よかった・・・!」



耳元で聞こえた掠れた声
痛いほどに自分を抱き締める細い腕
アンジールからがどんな状態だったか勿論聞いた
だけど、その震え掠れた声が、真っ直ぐ届く言葉が、重くて、痛かった



「・・・ごめん、・・・俺・・・」
「ごめんじゃないよバカ・・・!」
「うん、ごめん。俺、ホント・・・バカ、だよな・・・」



片手をベッドに押し付けて、上半身を起き上がらせれば脇腹に痛みが走る
痛い、マジで痛ぇけど、構わずの震える肩を抱き締めた



「・・・冷たかった」
?」
「・・・キミの手、冷たくて・・・名前を呼んでも、目を開けてくれなかった・・・」
「・・・っ」
「・・・でもね、でも・・・今いるキミは、本物、だよね?」



あぁ、本物だ
そう伝えたいのに言葉が出てこなくて、その代わりに強く抱き締めた
腕の中でホッと息を吐いて、よかった、と繰り返す
脇腹の傷よりも、殴られ切れた口端よりも、ずっとずっと、震えたその声が痛かった

(ここにいる事が全て)

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(夢書きへの100のお題:59.ここにいる事が全て)