深い闇の中、ぽつんと立つその背に惹かれた
役に立ちたいと思った
貴方が誰を想い、たった一人の為に生きているのだと、わかっていたけれど



、まだいたのか」
「・・・暁」
「寝ろよいい加減に」
「・・・寝れないんだよ。目を閉じると、思い出すから」



呆れたような、だけどわかってるような、そんな笑みと一緒に零れるのは溜め息
肩にそっと掛けられた温もりの残る上着
温かくて、優しくて、ぎゅっと握り締めればふわりと暁の匂いがした



「正式な、玖蘭家の生き残り・・・目覚めちゃったね」
「・・・それは口にするな。知っているのは寮長と俺、後はお前だけだろ?」
「全部全部、あの娘を守る為なんだよね」
「・・・そうかもな。共存だとか言っても結局はあの風紀委員の傍に、守る為、だろうな」



わかっていた事だけど、実際に目覚めてしまえば物語はずっと進む
二人だけの物語
ハッピーエンドなのか、バッとエンドなのか、それを見届ける事すら、あたし達には出来ないかもしれない



「あーあ、やっぱり敵わないなぁ」
「純血にか?それとも、あの風紀委員か?」
「あえて言うならあの娘かな」
「まあ、お前は血筋的には問題ないからな」
「ちょっと、誰か聞いてたらどーすんのよ。・・・それ知ってるの、暁だけなんだよ?」



ジッと軽く睨めば、ふっと笑って軽い口調でごめんごめん、と肩を竦める
こんな時間に校舎の屋上に来る人はいないだろうけど、それでも気を付けてよとあたしも笑う



「で?どうするんだよ」
「えー?なにがー?」
「このままってわけにもいかないだろ?」
「んー、そうだよねぇ」



細いフェンスの上
夜風が少し冷たくて、それが逆に気持ちよかった



「もう暁と結婚しよっかな」
「もうって、諦めかよ」
「じゃあ副寮長」
「元老院のあの方、苦手じゃなかったか?」
「んー、じゃあ支葵」
「繋がるだろ、それじゃ」
「じゃあやっぱり暁」
「・・・お前の選択肢の中に英はいないのか」



英は煩いし枢様命!だからね
そう言ってフェンスから飛び降りて、んんっと身体を伸ばす
いつかはバレる
それはわかってるけど、もう少しだけ自由でいたい
この場所が自由かと聞かれたら、その答えをあたしは口にする事はできないけど



?何やって・・・おい!」



鋭い爪が薄い皮膚を切り裂く
痛みはない
驚いた顔で目を丸くする暁に笑って、真っ赤になった右手を差し伸べた



「あたしさぁ、あの時に死ねばよかったって今でも思ってる」
「はぁ?だからって血を流す事ないだろ!」
「いやこれは気分的に?それにさぁ、結末がわかってる物語って、思ったよりもつまんないよ」
「・・・〜っあのなぁ!」



伸ばされた暁の手が傷口に触れる
ちくっとした痛みが鈍くなった感覚を刺激して、離れていく指先はそのまま暁の口元へ



「バレてもいいのかよ」
「バレないよ。この匂いを知ってるのは、誰もいないから」
「血の匂いに気付く奴は大勢いるだろ」
「あ、そっか」



血は止まっても、傷口は塞がっても、零れた血は戻らない
しかも俺の上着まで、なんてホントは気にしてない癖にしょうがないなぁって顔であたしを見下ろす



「・・・俺は知らないぞ」
「あら、逃げるの?こんなに可愛い婚約者をおいて」
「婚約者、ね・・・。お前がどうしようもなくなって、もう無理だって思ったら、貰ってやるよ」
「ふふ、すっごいセリフ」
「最後まで諦めるなよ。・・・じゃあな」



すぐそこまで近付く気配
素直で可愛い婚約者の元にいれば良いのに、ホント残酷な人



「――――― ・・・、こんな時間に血を流したりして、何をやってるのかな?」

(振り返るまでもない)

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(夢書きへの100のお題:48.振り返るまでもない)