南の地へ任務に出たまま、同行の者は既に本社へと帰還しているにも関わらずいつまで経っても戻って来ない
挙句の果てには連絡さえ取れなくなった友が突然戻ってきた
それはホッと安堵したが、その友は腕に見慣れたものに染まった小さな何かを抱えていた
「子供、か?」
「だろうな。今回の事と何か関係があるようだが・・・ジェネシスの事だ、何を考えているやら」
「セフィロス、上はどうなった?」
「ギリギリだな。もう少し戻るのが遅ければ・・・MIA、もしくは追われる身となっていただろうがな」
そうならなくてよかったと、アンジールは肩を竦め赤ランプの付くその先を見た
普段見る事のない動揺したジェネシスが連れてきた小さな少女
ここは病院ではないと言い張る研究員をジェネシスは愛刀で脅し、更には助けなければ殺すとまで叫んだ
さすがの研究員達も顔色を変え、今頃は必死に命を繋ぎ止めているであろう
「ジェネシス、どうだっ・・・?」
薄暗い廊下の向こうから歩いて来るジェネシスに気付き、セフィロスが問い掛けるが最後まで言い終える事は出来なかった
「おい、ジェネシス!まだ処置中だ!」
赤ランプが点いているというのに構わず中に入ろうとするジェネシスを、アンジールが肩を押さえ込み何とか止めた
一体どうしたんだと、ジェネシスと古くから知るアンジールは眉を寄せる
「・・・っうるさい!離せアンジール!!」
普段大声をあげる事のないジェネシスのその声に、アンジールはポカンとなるが押える力を弱める事はなかった
ワンテンポ遅れ、おまえが行った所で何が出来る!とアンジールが叫べば、ジェネシスは整った顔を歪めその腕を振り払う
わかっている、けれどジッとなどしていられない
そう吐き捨てるように言って、反対側の壁へと背中を寄せる
「ジェネシス、何があった」
セフィロスの静かな問いに、ジェネシスは眉を寄せ視線を左右へと流す
問われた所で簡単に説明できる事ではない
「・・・俺を庇った、それだけだ」
他にも言い方があったのかもしれないが、いくら言い方を変えたとしてもその事実は変わらない
けれどジェネシスを古くから知るアンジール、そしてソルジャーになってから何かと行動を共にるすセフィロスはその言葉に顔を見合わせた
子供がジェネシスを庇って怪我をした?それも、命に関わる程の?
まず初めに浮かんだ疑問はそれだった
そして、どうしてソルジャー・クラス1stへの昇格が決まっているジェネシスが、庇われなければならない状況にあったのか
どう考えてもありえないその状況
けれど今のジェネシスに何を聞いても無駄だろうと、ふたりは諦めたように肩を竦め溜め息を零す
カツカツと足音が薄暗い廊下に響いた丁度その時、煌々と点いていた赤ランプが消えた
その瞬間まるで何かに急かされるようにジェネシスはその扉の奥へと消える
「・・・どうしたんだ、あいつは」
「さぁな」
セフィロスが髪を揺らしながら壁から離れ、難しい顔をした統括の補佐官が歩いてくるのを静かに見つめる
足音は当然のように目の前で止まり補佐官はふたりの顔を見てから重い溜め息を吐き出した
「ジェネシスがあの少女を自分の手元に置くと言って聞く耳を持たない」
「手元に?・・・統括はなんて?」
「勿論反対している。一般人の、それもまだ10歳前後だと思われる少女だ。それなりの理由がなければ無理だろう」
「理由、か・・・。あれは理由にはならんのか?」
アンジールが呆れたような、しかしどこか懐かしむような目で扉が開きっぱなしの部屋を差す
その視線を追うようにして部屋の中を見る
お世辞にも綺麗とは言い難いその部屋の中に置かれたベッドに小さな膨らみ
その傍らに床へと膝を付いて、優しくその小さな頭を撫でるジェネシスの姿があった
「後は私から統括に話をしてみるよ。あの子の報告もしなければいけないからね」
少女の処置に立ち会ったホランダー博士が、アンジールをチラッと見てから補佐官と共に歩き出す
足音が次第に遠ざかりセフィロスとアンジールは顔を見合わせゆっくりと処置室へと入る
「・・・なまえ」
小さな呟きにセフィロスは、名前?と聞き返す
「あぁ。名前を、呼んだんだ」
俺の名を、確かに呼んだんだ
愛しむかのようにジェネシスはそう言うと、ベッドに静かに眠る少女の手を握る
失いかけた温もりは少しずつだけれど取り戻していた
「ジェネシス」
「口がきけないと思っていたんだ。だけど、あの時、確かに俺の名前を呼んだんだ」
「・・・そうか」
セフィロスとアンジールは、それがどうした、と言わんばかりに眉を寄せるが
ジェネシスの声は温かく、そして優しい声色で紡ぐから、何も言えずただ顔を見合わせ肩を竦める
この小さな少女とジェネシスの間に何があったのかわからない
けれど、ジェネシスが一週間以上も行方不明になっていた理由にこの少女が関わっている事は確かだろう
「・・・セフィロス、アンジール」
「なんだ?」
「どうした?」
また、笑ってくれると思うか?・・・身体に一生消えない傷を負う事になった理由の、この俺に
その問いは思いのほか小さく、そしてアンジールでさえ聞いた事のないような不安に揺れていた
今度こそ本当に、ふたりは目を丸くして顔を見合わせ、答えの見つからない言葉を探すように視線を彷徨わせる
あの純粋な瞳で真っ直ぐに自分を見上げ、本を読んでやればその小さな指で必死に声を追う
言葉を交わす事はなかったけれど伝わる気持ちは確かにあった
少しだけ、ほんの少しだけ笑ってくれる
それが言葉に出来ない、胸がほわりと温かくなった
もっと笑って欲しいと願うのは、あの時の時のように名前を呼んで欲しいと願うのは、異質な自分には叶わぬ夢なのか
自分の元に置いておけば、少なくともまともな生活を送れるだろう
あの村にいるよりもずっと良い生活が出来る
だったらその方が良いんじゃないか、いや良いだろう
「・・・わかって、いるさ・・・」
どんなに理由を付けても、この少女の幸せだと言い聞かせても
結局それは自分勝手な思い
けれどそれでも、一度触れた小さな温もりを手離す事は出来ない
(エゴでしかなくとも)
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(夢書きへの100のお題:40.エゴでしかなくとも)