「それ取って」
「・・・俺、アンタのパシリじゃないんだけど」
「うん。早く取って」
「・・・」
うんって言ったよね?
日本では否定の言葉に "うん″って使うの?
この委員会に入って随分経つけど、こんな先輩見た事ない
「早くしてよ、部活行けないじゃん」
「・・・どーぞ」
「ありがと」
寝てる間にいつの間にかなっていた図書委員
早くテニスがしたいのに、委員会の仕事は中々終わらなくて俺もイライラしてた
だけどそれ以上に目の前の先輩はイライラしてるのか、明らかに一行目と字が違う
「よし、後は後輩に任せてあたしは部活に行くっと」
「は?」
「あたしはキミと違ってただの部員じゃないの。んじゃ、後は頼んだから」
「ちょっ、先輩!?」
思わず伸ばした俺の手をサラリとかわして、名前も知らない先輩はさっさとカウンターを出て行った
後は後輩に任すとか意味がわからない
俺だって早く部活に行きたいのに、何で後輩だからってだけで残りを1人でやらなきゃいけないのか
「・・・さいあく」
あんな先輩とまた委員会で顔を合わせるのかと思うと心の底から嫌だった
だけど違った
俺はその、我が道をゆく先輩にその日の内にまた顔を合わせる事になる
***
「!久し振りに顔を出したかと思えばそれは俺のドリンクだ!!」
「だって喉渇いたし」
思った以上に遅くなって、急いで着替えてコートに向かった
初めに耳に届いたのは珍しいと言える手塚部長の怒鳴り声
聞き慣れない "″という名前に、コートの端で苦笑いを浮かべている不二先輩に近付いた
「不二先輩」
「あぁ越前、委員会の仕事お疲れ」
「っス。・・・あの、あれ誰っスか?」
「あれ?ベンチに座ってる子の事?」
「はい」
「そう言えば越前は会った事がなかったね」
「自分で用意すればいいだろう!?そもそもドリンクを作るのは、マネージャーであるお前の仕事だ!!」
「手塚、部活中にうるさい」
「って事だよ」
「・・・マネージャー?この部にマネージャーなんていたんスか?」
「んー・・・そうだね、が顔を出したのは半年ぶりくらいかな?僕はクラスが同じだから毎日顔を合わせてるけど」
そんな顔を出さずにいてマネージャーだと言えるのか
仁王立ちする手塚部長の前に、堂々とベンチに胡坐をかいて座るマネージャーらしき人をジッと見る
「確かに顔を出す事は少ないけど、はミクスドの選手でもあるから忙しいってのもあって仕方ないと言えば仕方ないんだけどね」
「ミクスドって、あの学校関係なくペア組んでやるやつっスか?」
「そうそう。はその選手でもあって、確か・・・立海の切原っているでしょ、彼のパートナーだよ」
「ふーん」
腕は確かだよ
そう言って不二先輩は笑ったけど、ミクスドの前にダブルスさえ興味のない俺にしたらどうでもいい
っていうか関係ない
は ず だ っ た の に
不二先輩はあっと思い出したように俺を見て
俺にとって最悪以外の何者でもない事を、いつもの何を考えてるかわからない笑みでとんでもない事を言った
「とは言ってもね、今年からは別部門で学校別の試合も行われる事が決定したんだけどね」
「ウチも参加って事っスか?」
「勿論だよ。越前と、僕と桃がそれぞれ女子テニス部からパートナーを取って出場する事になってるから」
「ふーん」
サラッと聞き流した瞬間、何か嫌な組み合わせが混じってた気がして隣に立つ先輩を見上げる
そこにはニコニコと無駄に笑みを浮かべた不二先輩
「そう言えばも委員会で遅れて来たけど、越前はもう顔合わせるんじゃないの?」
「・・・まさか、委員会って・・・」
「うん、越前と一緒で寝てる間に決まった図書委員だよ」
「・・・っ!!」
あの我が道をゆく先輩か・・・!!
そう言えば最近、それも数十分前に聞いた事のある声だとは思った
「あぁもううるさいよ手塚。ミクスドで頂点目指す為に来たんだから、あたしも今は選手だっての」
「半年も顔を出さなかった奴のいう事か!!まったく、行き成り "赤也と切ったから青学の選手としてミクスド出る″とは一方的過ぎだ!」
「だって、あたしがここにいるのは赤也とミクスドやる為じゃないし」
「そもそもお前はマネージャーと言う立場の癖に・・・ん?、だったら何故テニス部のマネージャーなどになったのだ?」
あの寡黙な手塚部長があれだけ声を荒げて怒鳴るのも珍しい
、先輩?
その人の事を知らないのは俺だけじゃなかったのか、チラチラと手塚部長達を見ている人が多い
「なんでって、それは・・・」
隣で不二先輩がくすっと笑った
あぁ嫌な予感がすると、帽子をかぶり直そうした瞬間、あの先輩と目が合った
ただ目が合っただけじゃない
明らかに俺を挑発するような、どこかで見た事のある鋭い瞳
「ふふ、越前も愛されてるね」
「はぁ?意味わかんないっスよ」
「そうかな?」
「・・・どういう意味っスか?」
頭にちらつく何かが、ハッキリと重い出せなくてイラついた
だけどその答えは以外と早く見つかった
「はね、本来は立海に入る筈だったんだよ、それもテニス部からの推薦でね
だけどは完璧な待遇が約束されている立海じゃなくて、何でも "逢いたい人″がいるみたいで青学を選んだらしいよ?」
挑発的な瞳
俺をパシリのように扱うあの言葉
「・・・あ、思い出した」
その瞬間、いつの間にか鬼のような顔をした手塚部長と先輩が目の前にいた
顔を上げればあの挑発的な瞳と目が合う
「思い出した?越前リョーマ」
「・・・海岸沿いの、テニスコート」
ぽつりと呟けば、手塚部長が "海岸沿いのテニスコート?、なんだそれは″と眉間の皺を濃くする
隣に立つ不二先輩はニコニコと事の成り行きを静かに見守っていた
「・・・な、んで・・・?」
それだけ言うのが精一杯だった
だっている筈がない
あの時確かに、アイツは "ドイツに行くから、バィバィだね″って言って俺の前から消えた
「逢いたかったからだよ。ドイツの名門校の誘いも、立海の推薦も、全部断わってもキミに逢いたかったの」
「と越前は知り合いだったのか?というか、ドイツの名門校の誘い!?」
「ほらほら手塚、僕達はお邪魔だから行くよ」
「あ、おい不二!!」
視界の端で驚いた顔の手塚部長を引きずる不二先輩が、俺を見て嘘っぽくない笑みを浮かべた
コートの端に残されたのは俺と先輩、じゃなくて
初めて、好きという感情を知った・・・教えてくれた相手
なんで?なんでいるの?
全部断わったって、俺が日本に来るのはあの時はまだ決ってなかった
それに青学に入学する事だって俺でさえ知らなかったのに、立海を断わる理由がわからない
「リョーマ?」
「・・・な、んで・・・なんで、青学に?っていうか、何で日本に・・・、なんで知って・・・?」
「だから、リョーマに逢いたかったからだってば。何度も言わせないでよ恥ずかしいな」
「っだから、なんで知ってんの!?それに、青学に入学するかなんてわかんないじゃん!」
「あぁ、リョーマのお父さんって青学出身でしょ?だからきっと、ここからスタートすると思ったんだよ」
あっさりした答え
あの頃とあまり変わらない身長差
だけど、ジッと見なければわからない程に成長した
「あたしはリョーマの事、すぐにわかったのにさ。入学式の日、思い切って声掛けたのに完全に忘れられてたもんねぇ」
「ちが・・・っ!!」
「まぁいいけど、思い出してくれたみたいだし」
「・・・っ忘れた事なんてなかった!」
「へ?」
「、が・・・変わりすぎ、全然別人だし・・・っ!」
「あー・・・まぁ、後1年で結婚出来ちゃう歳だからね。・・・綺麗になってて、わかんなかった?」
ニッと笑うに、不覚にもドキッとして顔を背けた
だけどそれは肯定してるようなもので、くすくすと笑い声が聞こえた
卑怯だ
突然、急にあっさりと別れの言葉を残して俺の前から消えた癖に
こうして何の連絡もなく俺の前に現れて、しかも俺が気付かない事を知ってて何度か言葉を交わしてる
「リョーマ?」
「・・・ムカつく」
「へ?」
「ムカつくって言ったんだよ」
逢いたかった、そう言った癖に肝心な事は言わない
そこまでして俺を追って、俺に逢う為に日本に来て青学にいるなら
その理由までちゃんと言えば良いのに言わないのは、俺に言わせる為でしょ?
「」
「ん?」
「何で俺に逢いたかったの?」
「逢いたかったから」
ほら、肝心な事は言わずに誤魔化す
「そんなに逢いたかった理由は?言ってくれなきゃわかんないんだけど」
「言わなきゃわかんないんだ?」
「わかんないから聞いてるんだけど」
「そんなに鈍感だっけ?あ、でもあの頃のリョーマは素直で可愛かったなぁ・・・」
「誤魔化さないでくれる?。ほら、言いなよ」
「ちぇ、わかいくなーい!」
サッと帽子を取って、そのまま深くかぶってさっさと背を向ける
まだ答え聞いてないんだけど?と無言で背中に訴えるようにジッと睨む
だけど、そんな睨みも効かないのかは振り返る事なくコートを出て行く
は?ここは正直に言う所じゃないの?
らしいと言えばらしいけど、またの機会に・・・なんて余裕は俺にはなかった
「・・・っ!!」
コートの周りにあるフェンスに片手をかけたまま振り返った
何でもないように "なにー?″と首を傾げる
それがまたムカついて、俺はラケットを肩に乗せたまま大股で近付いて
「・・・俺が好きなら好きって、ハッキリ言いなよ」
「はぁ?自意識過剰にも程が・・・っ!!」
俺がいつもかぶっている帽子をサッと取って
俺の言った事にムッとするの唇にそっとキスを落とした
ファーストキスじゃない
だけど、間違いなく俺のセカンドキス
何だか耳が痛いような叫び声が聞こえたけど気にしない
視界の端で手塚部長が物凄い顔をしながら、コッチに来ようとしてるのを不二先輩が冷笑みで止めていても
「ほら、言いなよ」
俺には関係ない
だって、今を逃したらは絶対言わない
チャンスは今だけ
後でグラウンド、100週・・・いや、下手したら外周とか言われそうだけどまぁいいよ
だから早く言いなよ
「・・・っあぁもう!・・・好き、だよ・・・ばかっ!!」
やけになって叫ぶは、俺の手から帽子を奪い取って
それを自分でかぶると思ったけどそうじゃなくて
「・・・・・・ホント、逢いたかったんだよ・・・!・・・もっと早く気付け、ばーか・・・」
そう言って触れた唇は、ちゅっと音を立ててすぐに離れたけど
無理矢理俺のにかぶせた帽子
視界が閉ざされる瞬間に見えたの顔は、倒れるんじゃないかって心配するほどに真っ赤だった
(それは反則)
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(夢書きへの100のお題:33.それは反則)