いつだって俺の先をマイペースに歩く彼女
手を伸ばせば触れる事が出来るのに、決して抱き締める事は出来ない
憧れ?尊敬?つり橋効果?
そんなのどうでもよくて、今はただ、あんたに近付きたかった
「アンジール、ごめんな・・・」
今頃は慌てふためいているかもしれないパートナーを思い、ザックスはぱちんと顔の前で手を合わせた
ちらっと片目だけ開けて見れば、映し出される数字はどんどんと数を重ねていく
「これも可愛い後輩の為だ、許せアンジール!」
見慣れない数字へと変わり、そしてそれは遂に目的の数字になり一層浮遊感がザックスを襲う
それでも口元はだらしなく緩みお決まりの音を立てて開いたドアから、ひょいっと顔を出せばオレンジ色に染まる空が視界いっぱいに広がった
「うっわぁ・・・!なんだよ、これ・・・俺達のフロアと、差がありすぎじゃね?」
初めて訪れた、本来ならば立ち入る事は出来ないソルジャークラス1st専用フロア
エレベーターを下りればそこには円状の空間が広がり、手前の壁以外は全てガラスになっていて景色は抜群だ
さすがは1st専用フロアだと呟きながら、ザックスはアンジールから拝借したカードキーをポケットにしまいこみ歩き出す
「の部屋はっと・・・っつーか、あれって?」
景色が良く見える場所に、大きく見るからに高そうなソファーが置かれている
そこに小さな見覚えのある塊を見つけ、ザックスはまさかと思いつつ近付いた
「・・・?」
「んー?」
ソファーに深く腰掛け、手のひらよりも少し大きめな本を読む背中に声を掛ければ曖昧な返事
パッと表情を明るくし前へと周り込んでもう一度呼びかける
すると、今度はゆっくりとの視線は本からザックスへと移った
「あ、仔犬くん。どーしたの?」
「仔犬じゃなくて、ザックス、な!」
「そうそう、そうだったね。で?どーしたの?」
アンジールと一緒?なんて言いながら周りを見てもアンジールの姿はない
どうやってここに来たのかとが問う前に
ザックスは悪戯っ子のような笑みを浮かべポケットの中からアンジールのカードキーを出しの前にぶらさげた
「え、まさか盗んできたの?」
「ノンノン!拝借、してきたんだよ」
「・・・それって言い方が違うだけでしょ?アンジール、怒ってるんじゃないの?」
「大丈夫大丈夫!俺、別に危害加えようとか、そんな理由じゃないし!」
そういう問題じゃないんじゃない?と、も怒るわけでもなく仕方ないように笑って溜め息を零した
「遊びに来たの?あ、英雄さんならさっき帰ってきたばっかりで寝てるよ?」
「違う違う。俺はあんたに、に逢いにきたの」
「あたし?なんで?」
「なんでって・・・逢いたかった、それじゃ理由になんない?」
ニカッと笑うわけでも、真剣な真面目な顔でもなく、はにかむような笑みで真っ直ぐなザックスの言葉
その顔からはふざけている様子も見えず、ポカンとは首を小さく傾げたまま
口から出てきたのは、そうなんだ?のひとことだった
「って、なんでソルジャーになったんだ?」
「・・・遊びに来るのも突然なら、話題変換も突然だね」
「あ、ごめん。もしかして、ワケあり?」
「そう言う訳でもないけどね。あ、珈琲淹れるけど飲む?」
「飲む!あ、俺、ブラックね」
立ち上がりカウンターに向かうは視線だけ振り返り、何かイメージと違うね、と肩を揺らした
そう?どんなイメージ?と聞き返すザックスに、そうだな・・・ミルクたっぷりってイメージかな?と笑を含んだ声
それにはさすがのザックスも、子供扱いするなとむっとした表情でソファーの背に手をつき身軽に飛び越えた
「俺って、そんなに子供っぽい?」
ちょこんとの肩に顎を乗せ問えば、ザックスの黒髪が頬にあたりくすぐったそうに小さく笑が漏れる
「くすぐったいよ」
「なぁ、俺って子供っぽい?」
「はいはい、ごめんね?ミルクたっぷりって言っても、セフィロスだってそうだから、別に子供っぽいわけじゃないよ?」
ほらほら、離れてー!とふたつのカップを持つに、さらりと聞こえた隠れた事実にザックスは目を丸くした
あの英雄と言われ崇められるようなセフィロスがミルクたっぷり
ありえないと呟きながら、先にソファーへと戻ったに促されるようにぽすっと腰を下ろす
「で、なんだっけ。あたしがソルジャーになった理由?」
「へ?あぁ、そうそう。ワケありなら無理に聞かねぇけど・・・」
「ワケありって程じゃないよ?ただ、両親がいなくて育ててくれたお兄ちゃんが死んじゃって、んで行くとこなくて、拾われたって感じ?」
「・・・は?」
「たまたま任務であの村に来てたジェネシス、今は1stのひとりね、その人に拾われたっていうか・・・あの頃の純粋なあたしが懐いたっていうか・・・」
ジェネシスってね、外見だけはパーフェクトにいい男だから、あの頃のあたしって面食いだったらしい
第三者が聞けば不幸話以外の何者でもないだろうそれを、あっさりと、それもケタケタと笑いながらは話す
「え、ちょ、それって・・・孤児になって、神羅に来たってこと?」
「うはぁ、キミもスッパリと言うね」
「あ、ご、ごめん!」
「いやいや、別にいいんだけどね。うーん、元々孤児みたいなものだったし、まぁそうなのかな?」
神羅に連れてこられた当初は、ジェネシスがコートの中に何とか隠し自室へ
そのまま半年という長い間はずっとジェネシスの部屋から出ず、そこで誰にも知られる事なく過ごしたの
初めは退屈だったけど、あの頃のあたしはジェネシスに懐いてたし、まぁそれもそれでいいかなってさ
だけどいつからかな、任務任務で出掛けるジェネシスを見送りながら、時には傷だらけて帰ってくる事もあってさ
― あたしも、ジェネシスの隣に立ちたい
そう思い始めたのは、割と神羅に来てからすぐだったと思う
丁度その頃にセフィロスやアンジールにあたしの事がバレたのもあって、何か流れでちょっと挑戦してみようかなってね
さすがにあの3人が師匠ともなれば成長も早くってさぁ、気が付いたら1stになってたの
「まぁ、運命だったのかな」
ポカンと、急に頭に入ってきた情報の処理に追いつかないザックス
熱い珈琲に息を吹きかけゆっくりと口に含めば、少し入れたミルクのまろやかさが広がった
「・・・そう、だったんだ・・・。なんか、ごめん、俺、聞いちゃまずかった?」
「そんな事ないってば。それに、今はよかったって思ってるよ。ここにきて、そりゃ嫌な事もツライ事もあったけど・・・」
それでも、その中には楽しい事もあるから
そう言って笑い、付け加えるように、キミにも会えたしね、とにっこりと笑みをザックスに向ける
キョトンとしたザックスだったが、ゆっくりとその瞳をまん丸にしてパァッと表情を明るくした
「俺も俺も!に逢えて、よかったって思ってる!」
花が咲いたような、まるで地上を明るく照らす太陽のような、そんな笑みを浮かべるザックス
アンジールの言う仔犬とは本当に的を得ていると、は内心小さく笑みを漏らした
「それにね、大事なのは今だよ」
「今が大事、かぁ・・・。うんうん、そうだよな!」
「いくら過去が今の自分を形作ってるって言っても、過去はどんなに嘆いても変えられないから」
濃い目の珈琲を口に含み、苦味が広がる美味さに喉を鳴らす
過去?現在?未来?
結局は全て繋がっていて、全てが関わっているのだから、何も広範囲に考える必要はない
今を生きればおのずと未来は切り開かれる
(そんなものさ、きっと)
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(夢書きへの100のお題:30.そんなものさ、きっと)
なんていうか、ザックスって書きやすいようで書きにくい・・・のかな