疲れて眠ってしまったをそっとベッドの中に運んで、気付かないふりをしていた痛みに床を転げ回る
そんな俺を奇妙な目で見下ろすアンジールから受け取った痛み止めらしきものを一気に飲み干した



「うぇ・・・ごほごほっ!・・・な、なんだよこれ〜!激マズ!・・・っいてて・・・」
「馬鹿だな、相変わらず」
「う、うるせぇ!」



苦いなんてもんじゃない、毒に近いそれが喉を焼くように胃へと入っていく
差し出された水を奪い取って口直しとばかりにゴクゴクと飲み干せば、呆れたようなアンジールがベッドに眠るに近付いた
眠っている事を確かめると、そのままベッドに腰掛け軋む音がやけに大きく聞こえる



「で?」
「・・・なんだよ、で?って」
「考えは纏まったか?」
「・・・」



それはきっと、が望む事への決断
冷たい床に座りこんだまま俺を見下ろすアンジールの視線から無意識に顔を背けた



「・・・は傷付く覚悟、傷付ける覚悟、その両方を持っている」



急に語り出したアンジールに俺はそっと顔を上げる
アンジールはてっきり俺を見てるかと思ったけど、その視線は何もない暗闇をジッと見つめてた



「だけどなザックス、それだけじゃない。あいつは、他人の分まで傷付き、傷付ける覚悟までも自分の中に隠し持っている」
「・・・他人の分まで?」
「あぁそうだ。おまえが傷付くのなら代わりに自分が、おまえが他人を傷付ける事で傷付くのなら代わりに自分が、そういう奴だ」
「・・・」



まったく、困った奴だ
すっと目を細め呟き、視線だけをへと振り返り微かに口元を歪めた



は弱い。いくらクラス1stだと言われても、その内にある弱さは否定出来ない
 どんなに鍛錬を積んだとしても、内の弱さはそう簡単に打ち破れるものでもなければ、克服できるものではない」



わかる気がした
何となくだけど、ソルジャーとしては甘いの姿勢
それは力どうこうじゃなくて、傷付き、傷付ける事への恐怖



「大切な人が傷付く、それをただ見ているのが辛い、苦しい、そう言っていた」
「・・・だから、ソルジャーに?」



それを知っていたら、俺達はに全てを教える事はしなかった
そう言ってアンジールは寝返りを打ってこっちを向いたの髪をそっと撫でる
その横顔は心からを想っている、大切にしてる、そう思わせるには十分だった
教えなければは傷付いたままだろ?と、俺は浮かんだ疑問を口にする



「ソルジャーになれば、大切な人が傷付く前に自分が動く事が出来る。だからはソルジャーになったんじゃないのか?」
「・・・自分が傷付く事で、庇われた者は自分の不甲斐なさに己を責める」
「でもそれは!」
「そしてもまた、そんな庇われた者を見て、自分は間違っているのではないかと己を責める」
「・・・っ」



永遠に続くとは思わないか?
そう聞かれ、答えたいのに言葉が見つからない俺は悔しさを紛らわすように拳を握った



「俺やセフィロス、ジェネシスや、勿論おまえも。お互いにたとえ庇い合ったとしても、そこには何の後腐れもない」



それはどうしてだ?
聞かれた答えを知ってる
なのにそれを口に出す事は、の想いとか、今までの事を否定するようで出来なかった



「大切なモノ、それは時に厄介だな」



仲間、親友、幼馴染、恋人、親子、兄弟
人と人を繋ぐ言い方はいくつもあって、複数に当てはまる場合も、その中のたったひとつの場合だってある
そしてそれは、お互いの持って生まれたそれによっても大きく変わる



「・・・アンジールは、それでも傍にいる事を選んだのか?」



アンジールだけじゃない
ジェネシスもセフィロスも、永遠に続くとわかっていても傍にいる
矛盾してると思う
だけどそんな矛盾も、俺にはわかる気がしたから、だからこそ聞いた



「言っただろう?大切なモノは時に厄介だと。・・・俺達はあの日、の笑顔を見てから、離れる事なんて出来ないのさ」



たとえお互いを傷つけ合う事になったとしても
そう呟いたアンジールの横顔に迷いはなかった
きっとそれをも受け入れているんだと、だからあんなに心を開いているんだと、なんか悔しかった



「・・・なぁ、アンジール」



不意に浮かんだ日常のワンシーン
薄暗い落ち着いた店内のカウンターに座る俺と
グラス同士がかち合う音が心地よくて、はにかむようなが俺を見る

   ― だから、王子様。ほら、よくあるでしょ。白馬に乗った王子様が、塔に閉じ込められたお姫様を助けて、最後はハッピーエンドっていう、あれ

夢物語だと思った
ソルジャー・クラス1stとして多くの者の上に立つ事もあるが、なんて可愛い夢持ってんだろうってさ
今時白馬に乗った王子様なんて、子供でも夢見ないって、そう思った



「俺、たぶん、が好きだ」



王子様っていうのはきっと、アンジールやジェネシス、セフィロスみたいに好きにさせてくれるんじゃないかって思う
後ろで見守っててさ、転べば手を差し伸べて、傷付いて泣けば、泣き止むまでそっと抱き締めてくれる
そんな優しく見守ってくれるのが王子様なのかなって



「俺、を守りたい。見守るんじゃなくて、傍にいて守りたい」



守りたいとか言ったら怒るんだろうけど、それでも俺は守りたいと思う
きっとが誰もに望むのは対等である事
お互いに庇い合っても、笑ってありがとうが言えるそんな関係
だけどそれは無理
だって俺は、男だから

   ― ナイトっていうのはさ、常にお姫様の傍にいて守ってくれる。なーんか、キミってナイトみたい

見つかるといいね、キミだけのお姫様
そんな事を言ってたけど見つかったよ
俺の、俺だけのお姫様はすぐ近くにいたんだ



「・・・たぶん、か。それはまた曖昧だな」
「好きって難しくねぇか?なんつーか、こう・・・」
「抱きたいと思うなら、全てを欲しいと思うのなら、好きなんじゃないか?」
「だき・・・っ!ちょ、アンジール!!」



おいおい、顔が真っ赤だぞ
嫌な笑みを浮かべながら完全に俺で遊んでいるアンジールに、空になったボトルをぶん投げた
それを器用に避けるもんだから余計に腹が立つ



「手強いぞ、ザックス」
「はぁ?」
「この姫の傍には、ソルジャー・クラス1stのバカ兄がふたりもいるからな」
「・・・はぁ!?」



名前を聞かなくったってわかる
ひとりは俺にとっての目標で、もうひとりはにとってたぶん誰よりも大切な男



「新人はもまれて強くなる。せいぜい頑張るんだな、新米ナイト」
「お、おう・・・!」

(白馬の王子には程遠いけど)

>> After  

(夢書きへの100のお題:86.白馬の王子には程遠いけど)
これにて第一部は終了となります
ここまで付き合ってくださった方々はありがとうございます!