燃え上がる炎と崩れ落ちる家々から巻きあがる埃
それの燃える臭いはいつになっても慣れる事なく整った顔を歪めた
― 気が緩みすぎだな、俺は
本来ならばこうなる前に気付いた筈の事態に気付けず、けれど慌てる事なく愛刀を振るう
頭に浮かぶのは口のきけない少女だが、いつも決まってこの村を出て行く姿を見送っているジェネシスにはどこか確信があった
自分の膝で眠ってしまった少女は大抵の事では起きない
きっとこの騒ぎにも気付かず、離れた場所で安全だろうと舞った紅にサッと血を蹴った
「・・・数が多いな」
逃げ惑う人の声はいつの間にか聞こえなくなった
今はゴゥゴゥと炎の燃え上がる音と、気持ちの悪い獣の呻き声だけが赤く燃え上がる世界に響く
生きている者はもういないだろう
たとえいたとしても助ける義理はないが、愛刀を振るう理由はきっとあの無邪気な少女
表に出す事のない無垢な心
感情を伝える術を持たず、けれど下を向く事もなくいつも前向きで、ひとつひとつに一生懸命な姿
いつからか忘れてしまった
― ・・・いや、忘れた、ふり・・・だな
あの日から、全てが色褪せて見えた
信じるものは何もないと、先の見えない暗闇から出る術などないとそう思っていた
純粋で真っ直ぐに見上げる瞳に何を期待した?
自分にはない、失ってしまったものを垣間見ていた?
どれもくだらない、ただの自己満足だと嘲笑う
洗い立ての陽だまりの匂いはいつの間にか消え、血生臭い臭いを纏う
これが本来の姿だとわかっている
それが俺自身であり、俺のあるべき姿
燃え盛る炎の中に揺らめく黒い影
襲い掛かるそれを切り捨て、愛刀に降り注ぐ紅を振り払う
たった一週間
けれど、その一週間は思いのほか長かった
「――――― ・・・ジェネーっ!!!」
聞こえた声は、視界の端に揺れた影は幻か
ソルジャー、クラス1st昇格が決まっている自分がなんて様だと
小さな手が、自分よりもずっと大きな身体をグッと押す
息を呑んだ
宙を舞う紅は瞳に映り、そして自分の頬へと降り注ぐ
温かいそれがジェネシスの思考を止める
「・・・っなに、を・・・何を考えているんだ!!」
腕に抱いた小さな身体は赤く染まり、温もりが腕を伝い脳へと信号を送る
真っ直ぐに自分を見上げる澄んだ瞳は閉じられたまま
浅く上下する肩は、白いシャツを染め上げるそれは、いくら願っても時が止まる事はなかった
ねむれなかった
なんでかわからないけどねむれなくて、こっそりとあそこをぬけだした
ガラガラと、バラバラと、崩れていく世界に何も感じなかった
だけどはっとした
あそこにはあのひとがいて、あのひとがいなくなるのはいやだった
だからはしったのにまちがってたのかもしれない
だってあたしは、なにもできないから
(その背に向かって全力で)
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(夢書きへの100のお題:66.その背に向かって全力で)