――― 大丈夫、姉さんなら大丈夫だから
そんな無責任な言葉を残して、あたしの大切な弟は姿を消した
弟がいつも絵を書いている川原に行っても
弟が好きだと言った桜の木がある場所に行っても
何処を探しても弟を見つける事は出来なかった
「、こんな所に居たら風を引くよ」
「・・・樹月」
「ほら、これを羽織って?」
「・・・ありがとう」
彼女の事を村人達はまるで死人だと、口々にそう言うけれど
初めは否定していた僕も衰弱していく彼女を見ていると、正直否定できなくなっていった
――― 大切な半身を、不幸な事故で失った彼女
不幸の事故、と言われているけれど僕は知ってる
あれは事故なんかじゃない
彼が望んで死を選び、自ら命を絶った事を
「、家に戻ろう?」
「・・・もう少し、ここにいたい」
彼女は弟が死んだ事を見聞きしてるけれど上手く整理出来ずにいる
こうして気が付けば弟の姿を追い求めて家を抜け出して、最悪一晩見つからない時もある
倒れている所を発見された事だって少なくない
「」
「・・・うん、ごめん。わかってる、わかってるから」
優しく抱き寄せた彼女は、以前の彼女とは比べ物にならないほど痩せ細ってしまった
少しでも力を入れたら折れてしまいそうな彼女をそっと抱き締める
彼女と彼が好んでつけていた香の香りがふわりと舞った
「、無理してわかろうとしなくてもいいよ」
「違う、違うの樹月・・・」
「違う?」
「・・・ちゃんとわかってるの、はもういないって、わかってる」
僕の着物をぎゅっと彼女が掴んで、こつんと僕の肩に寄り掛かる
「ただ、との思い出まで消えちゃいそうで怖いの」
「・・・」
「いつか忘れちゃうんじゃないかって、あたしの中にいるまで消えたら、あたしはもう耐えられない・・・っ」
彼女の涙を見たのは、彼が死んでから初めてだった
彼が死んだと知った時も、形だけの葬儀の時も、いつだって彼女はただ何もない空間をジッと見つめていただけ
「、泣いても良いんだよ。我慢しなくて、いいから」
僕がどんなに彼女を想い大切にしても
僕は決して彼に勝つ事は出来ないと、前から思っていたけれど痛感させられた
睦月を大切に思う僕だから、彼女と同じ双子と言う立場だから
繋がりの深さ、絆の強さ、痛いほどわかる
「・・・樹月」
「うん?」
「樹月は、ずっと一緒に居てくれるよね?」
「・・・」
「ずっと、傍にいてくれるよね・・・?」
「・・・勿論だよ。僕はずっと、の傍にいる。1人、残していなくなったりしないよ」
そっとキスを落として、僕は少し強く彼女を抱き締めた
僕はずっと傍にいる
いなくなったりしないから、だから安心してと想いを込めて
――― 樹月ごめん、姉さんを、お願い・・・っ
彼との約束は僕の胸の中だけに
誰よりも彼女を想い
誰よりも彼女を愛していた彼女の半身
彼と同じものを彼女に与える事は出来ないけれど
彼女だけを
彼女の全てを
これから先、ずっと愛し続けるから
「、僕がずっと傍にいる」
抱き締めたこの腕を離さないように
この先何があっても、彼女を守ろうと
彼女の傍にいて、彼女の幸せだけを祈ろうと
抱き締めた腕の中で震える彼女に、そっと誓いを立てた
(涙をながす夜に君を)
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(本音を言うとこういう系の主人公はちょっと苦手。ずばずば答える男勝りな主人公の方が書きやすい・・・)