猛吹雪の中、バカみたいに外に出た好きなヤツを探しに行く
見つけた時にはぐったりしてて、近くの山小屋なんかに二人で肌寄せ合ったりなんかしてさ
んでこう、雰囲気に流されたりなんかしちゃって・・・
カ、タン ――― ッ
「ギャァッ!!!おまっ、何やってんだよ!!」
「は?何って、椅子引いただけじゃん」
「引く意味がわかんねぇ!!俺の隣にいればいいだろぃ!!」
「・・・はぁ?」
お前何言ってんだよ的な目で俺を見るは、大袈裟に溜め息を吐いて肩を落とした
雪山なんて甘いシチュエーションじゃない
そりゃ確かに一歩外に出れば吹っ飛ばされるくらいの風と、傘の意味がないほどの豪雨
ガタガタと窓は揺れるし隙間から漏れる風が嫌な音で鳴く
「何をそんなに怖がってるのよ」
「怖がってねぇよ!」
「安心してよ、別に男襲う趣味ないから」
「ばっ!ちげぇし!!お前が平然と眺めてるそれが気持ち悪いんだよ!」
「これ?」
「ギャァッ!!持つな!!俺に近づけんなバカ!!」
これのどこが怖いのよ、今のアンタの方がよっぽど怖いっての
そんな事を言いながらは手にした不気味な物体を棚に戻して、教室の隅に座る俺の隣にしょうがなそうな顔で戻ってくる
――― 何が悲しくて、こんな不気味な部屋に閉じ込められなきゃならないんだよ!
ホントなら今頃は幸村君の家でクリスマスパーティーの予定だった
なのに、なのにだ、あのバカ也のせいで俺は、俺達は誰も居ない真っ暗な立海大の校舎に閉じ込められてる
不気味以外の何者でもないこの状況で俺にどうしろって言うんだ
「ストーブあって良かったね」
「・・・ゆらゆら揺れる赤い灯りがまた不気味だけどな」
「なぁんで怖いかな?そりゃ、髪が伸びるとか首が落ちるとか言うけど、別に今起きたって一人じゃないじゃん」
「言うなよ!一人とかそういう問題じゃねぇだろぃ!?」
何であんなにずらりと並んだ人形が怖くないのか
普通は逆だろぃ?と思いつつ、横目でを見るけど平気な顔でのん気に欠伸ひとつ
――― ホント、何が悲しくてクリスマスの夜に好きな女と、こんな情けない状況になってんだ・・・!
普通に考えて怖がるのはで、それを大丈夫だって言って安心させるのが俺の役目じゃね?
それなのに怖がってるのは俺だし、は仕方ないって顔で俺の隣に居るし
なんかもうホント全部台無しっつーか・・・
「あたしさぁ、あれが今、動き出しても怖くないんだよね」
「はぁ!?それはさすがに怖いだろぃ!?」
「いやだって、幸村君の方が怖くない?」
「・・・は?」
俺を笑わせるとか、雰囲気を良くするとか、そんな意味じゃなくて
は引きつった顔で俺を見ながら“実はさぁ・・・”って言い難そうに口を開いた
「先々週ね?幸村君と話してた時に、今年のクリスマスは雪降るかなって話をしてたのよ」
「部室で飯食ってた時か?」
「そうそう。それでさ、あたしがふざけて猛吹雪とか良いよねって言ったの」
「それのどこが良いんだよ・・・。で?幸村くんはなんて?」
「笑いながら“雪はさすがに無理だよ”って言うから、じゃあ雨!ってノリで答えたのよ」
何が言いたいのかさっぱりわからない
気のせいか少し近くなった距離に鼓動が早くなった気がする
「笑ってたんだけどね、その帰りにね。いつもと変わらない笑顔で“雨なら大丈夫だよ”って言ったんだよねぇ・・・」
「・・・は?」
「お天気お兄さん!とかってあたしも笑ったけど、大丈夫って言い方おかしくない?」
「・・・」
「それってさぁ、まるで・・・」
「言うな!それは言うな!気のせいだろぃ!」
「・・・だと、いいよねぇ」
遠くを見るようなの横顔を見て、俺も何だか寒気がして膝を立てて身体を寄せる
まさかそんな筈ない
そんな事が出来る筈ないと言い切れないのは、幸村くんの人外な所を俺も垣間見た事があるからだ
不思議とそう思えば並ぶ人形も不気味には不気味だけど怖くない
単純と呼ばれようが、天候を操る事の出来る人間に比べりゃ怖くないだろぃ?
「今頃はあいつ等、チョコケーキとかクリスマス用の真っ白いケーキとか食ってんだろうなぁ・・・」
「どっちもケーキじゃん」
「俺はケーキがメインなんだよ。って、?」
「幸村君達、ケーキは食べてないと思うよ?」
「はぁ?クリスマスなんだからケーキ食うに決まってんだろぃ?」
急に立ち上がるから右側がスッと冷たい空気が流れ込んでくる
ストーブだけの灯りしかない狭い部屋
何をするのかと思えば、ズルズルとストーブを近づけて、部屋の隅に積みげられてたダンボールをひとつ俺の前に置いた
「なんだよ?」
「ジャジャーン!実は、あたしがケーキ担当だったんだなぁこれが!」
「おぉ!!ちょ、まさか手作り!?」
「いぇす!崩れてないと良いんだけど・・・」
俺の前に置かれたダンボールの上に差し出された白い箱
それはケーキ好きの俺には見覚えがあり過ぎるもの
赤と緑のリボンを外して、ゆっくりと箱の蓋を開ける
「おぉーっ!!すっげぇ!!マジ手作りかよ!?」
「よかった、崩れてない」
「手作りと見せかけて、特注品?」
「ヒドイね。あたしの一ヶ月半の努力を無駄にする気?」
デザイン考えて、ここまで完璧にするまで時間掛かったんだからね!
そう言って笑うはすげぇ可愛くて、目の前にあるケーキも見た事ないくらいうまそうだった
ケーキ好きの俺が食べる事を勿体無いと思うくらい、綺麗に書かれた文字
筆記体で書かれた文字は、メリークリスマス以外は読めないけど・・・
「料理もプレゼントもないし、こんな部屋だけど、ケーキくらい食べよっか」
「俺的にはケーキもあってもいるし、十分!」
「あたしはオマケでしょ」
「はぁ?お前がメインだろぃ?」
「・・・え?」
「んで、が作ったケーキとか!まぁ、これが俺だけの為じゃないってのがあれだけど、嬉からいいや」
「・・・」
プラスチックのフォークを持ったまま俺をキョトンと見つめる
何してんだよってフォークを奪い取って、気持ちが焦ってビニールを剥すのに時間が掛かる
「食っていい?」
「・・・」
「おい、?」
「・・・あ、うん。どうぞ・・・」
「おっしゃ!いただきまっす!」
ケーキをホール食いするなんて、さすがの俺でもいつも出来る事じゃない
さすがにホール頼むわけにもいかないし、そもそも金もない
家で買ってくるホールだって弟達がいるからそのままってわけにはいかない
――― それもこれは、そこら辺で売ってるケーキじゃなくて、好きなヤツが作ったケーキ
それだけでも十分だっていうのに、狭い部屋にと二人
不気味に見えたあの棚も今じゃ何て事ない
ストーブのゆらゆら揺れる灯りも、綺麗に見えてくるから不思議だ
「・・・〜っんま!マジでうまい!」
甘すぎない生クリームと、中に引き詰められたフルーツ
あんなに最悪だと思ったクリスマスが予定は狂ったけど結果オーライだ
ふとケーキに手をつけない所か何も話さないに気付いて顔を上げる
「?食わねぇの?」
「・・・ブン太はホント、ケーキ以外には目がいかないのかね」
「はぁ?どういう意味だよ」
小さくその後に何か聞こえた気がして聞き返す
だけど、曖昧に笑ってその答えを聞く事は出来なかった
「・・・なんでもない。あたしも食べよーっと!」
「あ!おまっ、そのサンタは俺の!」
「えぇ!?いいじゃん、そっちのトナカイ食べたでしょ!」
「トナカイはトナカイ!サンタはサンタ!」
「お前は子供か!」
二人でギャアギャア言いながらケーキを食べて、これって最高じゃね?とか思った
確かにみんなで騒ぐパーティーも楽しい
だけど、好きなヤツと二人で過ごすクリスマスってのも
場所が場所だし状況も状況だけど、これはこれで良い思い出なんじゃないかって
「ぷっはぁー!食った、マジ食った!」
「お茶飲みたーい」
「あ、俺も思った。っつーかさ、このケーキ・・・小さくね?」
「・・・今更!?」
「お、おう・・・」
何でそんなに声がデカイのか、目を丸くして俺を見るに俺が目を丸くした
何かマズイ事を言ったのかと思い返しても“ケーキが小さい”としか言ってない
「・・・小さくないよ、十分なの」
「小さいって!」
「そのサイズでいいの」
「いや小さいだろぃ?だってこれ、俺が食って丁度良いんだぜ?」
テニス部全員で食べるならもっと大きいホールじゃないと足りない
俺だからペロッと食べられたってのもあるけど、空になった箱を見ても小さいと思う
「だから、ブン太が食べて丁度良いサイズなの!!」
「だから、それじゃあ足りないだろぃ!?」
隣に座ったが膝を抱えるようにして、合わせた両腕に顔を埋める
だからそれじゃあ足りないと言う俺にもう返事は返ってこない
だけどふとの言った言葉が引っかかる
「・・・なぁ、俺が食べて丁度良いって・・・なんで俺基準?」
それじゃあまるで、初めから俺専用に作ったみたいじゃん
そう言おうとしてハッとした様にケーキの上に書かれてた英文を思い出す
メリークリスマス以外は本気で読めなかった
赤也じゃねぇけど俺も英語は得意な方じゃない
だけど、自分の名前をアルファベットに置き換えて、それを頭の中で筆記体に変えて・・・
「・・・なぁ、・・・あのケーキって、さ・・・」
「・・・」
「全部は読めなかったけど、俺の名前・・・入って、た、よな・・・?」
「・・・」
何も言わないの肩を少し強めに掴む
反動で床へ落ちた左腕
そこから見えたの横顔が、灯りのせいにしては赤くて、一瞬真っ白になる
「、なんか言えよ・・・」
「・・・」
「・・・あれって、俺に・・・俺の為だけに、作ってくれた・・・?」
「・・・」
小さく、だけど見間違いじゃない、確かには頷いた
相変わらず俺の方は見ないし口は開かないけど、その答えは確かに俺に届いた
が俺の為に、俺だけのケーキを作ってくれた?
ケーキの上には俺の名前が入った英文
何が書いてあったかもっと良く読めば意味だってわかったかもしれない
「・・・ケーキなら、誤魔化せると思ったんだよね」
「え?」
やっと顔を上げたかと思えば、は泣きそうな顔でそんな事を言う
何が誤魔化せるのか、っていうか誤魔化す意味がわからない
「やっと、本命・・・見つかったんでしょ?」
「は?あ、いや、うん・・・まぁ、見つかったっつーか・・・」
目の前にいるとはさすがに言えずに
好き勝手に遊んでた俺を、一年の時からマネージャーをやってたは全部知ってる
真っ直ぐな視線を逸らす事も出来なくて、曖昧に答えた俺にはくしゃっと泣きそうな顔で笑う
「・・・おめでと、ブン太」
いやだから、それはお前なんだって言いたいのに魔法が掛かったみたいに言えなかった
頭を過ぎるのは昔の俺
適当に遊んで、適当に彼女作って、適当に浮気して、適当にそれを繰り返してた
それを全部見てきて、時には呆れたようにやめたら?って言ってきた
今更好きだって言っても信じてもらえない?
そんな不安が渦巻いて、また顔を伏せたに俺は何も言えず、だけどなかった事には出来なかった
「・・・、ちょい後ろ向け」
「え?ちょっ、ブン太!?」
膝を抱えて座るの腰を掴んで、ぐいっと後ろを向かせる
驚いて振り向こうとするに構わずその細い腰に腕を回した
「ブン太!離して!」
「ヤダ」
片手でポケットに手を突っ込んで、こっそり渡す筈だった色気もないプレゼント
ビリビリと片手で破り捨てて、中から出てきたそれを暴れるの腕を掴んで、驚きで動きが止まったその手首にはめた
「・・・え、これ・・・」
「お前、どうせネックレスとかブレスレットとかつけないからな。携帯だってストラップつけねぇし」
「・・・どうせ、女らしくないよ」
「そうは言ってねぇよ。ただ、普段もつけて欲しいだろぃ?だから・・・」
マジで悩みに悩んだ
ホントはもっと色気のあるもんが良かったけど、アクセサリー系は邪魔になるとか言うし
ぬいぐるみなんてキャラじゃないし、マフラーって手もあったけど、女らしくないくせにマフラーは手編みだし
考えて考えて、結局はこれが一番らしいって思ったんだよ
「俺とお揃いだかんな」
「・・・っ」
「ぜってぇ外すなよ!後、多分仁王とか赤也とかがネックレスとか用意してるけど、絶対貰うなよ!」
「・・・な、んで・・・良いじゃん、貰ったって・・・」
「俺がヤダ」
細い腰を抱き寄せて、その首筋に顔を埋めればビクッと肩が揺れる
こう言う時に限って香水なんてつけてる事
その香水がまた、自分で買ったわけでもなくて、幸村くんがの誕生日にあげたってのがムカつく
甘いけどスッキリした香りは嫌いじゃない
嫌いじゃないけど、他の男から貰った香水とか、すげぇムカつく
「香水、もう使うなよ」
「・・・ブン太には、関係ないじゃん」
「あるから言ってんの。香水欲しいなら俺が使ってんのやるから」
「・・・ブン太と一緒の香水なんていらないし」
「普通喜ぶところじゃね?」
「・・・寂しくなるだけじゃん」
「・・・」
なに、それって俺と一緒の香水つけると香りだけして寂しいって?
普段は女っぽくもないくせに可愛い事、言うなよ
「あぁもう、とにかく禁止な」
「・・・意味わかんない」
「俺がヤなの。なにが悲しくて、他の男に貰った香水つけてる・・・好きなヤツの事、抱き締めなきゃなんねぇんだよ」
「・・・っは?」
俺の腕を剥そうとしてた腕が止まる
その腕を今がチャンスとばかりに絡めて、そのままギュッと抱き締める
「俺が今まで遊んでたのは事実だし、は全部知ってんだし弁解するつもりもねぇよ。だけど・・・」
今まで何も考えずに言えていた筈のたった三文字の言葉
なんでこんなに喉が熱くなるのか、スラスラと出てこないのか
あぁ、マジでコイツが好きなんだって思った
「俺、が ――――― ・・・好きだ」
思いのほか小さな声は届くのか不安が過ぎった
だけど、一方的だった絡めた手が温もりに包まれる
小さく聞こえる吐息が何かを言おうとして、だけど言葉にならない
「泣くなよって言いたいけど、嬉し泣きなら大歓迎。・・・ずっとこうしてるから、後で全部聞いてやるよ」
肩に回した俺の腕を掴むの小さな手が震えてる
不規則に揺れる肩
女に泣かれるのなんて面倒だと思ってた
だけど、好きなヤツ・・・に泣かれるのは、それが嬉し泣きなら
俺の気持ちが泣くほど嬉しいなら、俺だって胸がギュッとなるくらい嬉しいんだぜ?
(君が隣にいるだけで)
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